「アンコン……シャス……?」
ずっと黒い炎を放ちつづけてきた梨花ちゃんの動きが、すこしだけ鈍くなる。
アンコンシャス・バイアス……ってなに?
わたしも、こんな状況の中、首をかしげる。
「無意識の思いこみ、もしくは無意識の偏見のこと! きみは、周りの友だちの意見や、今まで接してきた恋愛ものの創作物なんかから、無意識のうちに女の子は女の子を好きになってはいけないと思いこんでしまったんじゃないか?」
「っ!」
「アンコンシャス・バイアスは、恋愛観などに限らず、誰しもが抱いているものなんだ。ひとの脳には、受けとった大量の情報から即座に判断を下すため、似たような情報やパターンと結びつけて物事を単純に理解しようとする習性がある。きみは、同性を好きになったことを気にしすぎているんじゃないか? 加藤さんが彼女を好きになったことには、なんの罪もないよ!!」
「そんなキレイごと、聞き飽きたっ!!」
瀬川くんの問いかけに、わずかに理性を取りもどした梨花ちゃんが、泣き叫ぶ。
「同性愛は、おかしいことじゃない。胸を張って良い、普通のこと。ちょっと検索すれば、いくらでもそんな綺麗ごとが並んでる! でもっ、実際、現実の多くのヒトは異性愛者で、あたしは、その価値観が普通である人々の中で暮らしてるのっっ! みんなの恋バナにだって、共感なんてできないのに、アイソ笑いをしなきゃいけない。さゆの話を聞くのも……、ほんとは辛いよ……っ」
「梨花ちゃん……」
「……あたしだって……ほんとは、さゆの恋バナを、楽しく、聞いてアゲタイのに……」
今までの苦しみを吐露するような声に、わたしの方が泣きそうになってしまった。
梨花ちゃんは、自分の気持ちに、ずっと戸惑ってきたんだね。
親友の恋を応援してあげたい。だけど、他でもない自分の気持ちが、それを邪魔する。
すっかり攻撃の手を止めた梨花ちゃんに、すかさず、それまで事の成り行きを見守っていたウサちゃんが叫んだ。
「理人、今がチャンスだぴょん! 今ならば、彼女の悪魔化を止められるッ」
「わかったよ!」
瀬川くんが低く身構えて梨花ちゃんに向けて走り出した瞬間、ゾッとした。
このままもし、あの銀の刃で梨花ちゃんが斬られたら、わたしたちは間違いなく助かるだろう。
でも……。
『長いことネガティブな気持ちをこじらせた厄介な悪魔化を解くには、記憶ごと喪失させるほかないんだよ』
このままだと、梨花ちゃんがさゆちゃんに恋していたこと自体を、忘れちゃうかもしれないってこと⁉ 無防備になってすすり泣く梨花ちゃんに、瀬川くんの銀の刃が届こうとして……、
「待って、瀬川くん!! ダメっ!!!!」
「えっ……!?」
危ないっ! 間一髪のところで、瀬川くんの動きを止めることができた。
「瀬川くんっ。わたし、梨花ちゃんの恋心の記憶がなくなっちゃうのは、なんか違うと思うんだ!!」
「……っ。僕だって、そうしないですむ方法があるのなら、そうしたいよ! だけど……加藤さんは、あまりにも負の気持ちをためこみすぎてるから、たぶん無理だ!」
不意に、ウサちゃんがさっき言っていたことが、脳裏に流星のごとくよぎった。
『浄化の姫は、対象者の痛みに寄りそうことで、記憶を損なうことなく悪魔化を解くことができると言われているんだピョン』
わたしが、そんな大層な存在だなんて、今でも思えていない。
だけど、もし。
もし、一ミリでも、梨花ちゃんの大切な記憶を守れる可能性があるのなら……!
悪魔化現象解決のプロである瀬川くんとウサちゃんを差しおいて、これはあまりにも無謀な賭けだ。
だけど……、もうわたしは、これ以上逃げたくも諦めたくもない!!
「もう……疲れた……。あたしに……近寄るなっ!!」
よろよろとした梨花ちゃんが、目の前の戸惑う瀬川くんに、再び火炎玉を投げつけようとする動きを見せた瞬間。
「待って、梨花ちゃんっ!!」
限界まで、全速力で走った。
そのまま、瀬川くんを押しのけるようにして、黒い霧につつまれた梨花ちゃんを思いっきり抱きしめる。
「は⁉ く、黒野さん! なにしてるの!」
(……放せ、放せ、放せ、放せっ!! どうせ、誰もあたしの気持ちなんて、理解しようとしてくれないっ。話したところで、共感されるわけがないんだからっ)
「そんなことないよ、梨花ちゃんっ! わたしが、いくらでも梨花ちゃんの話を聞くっ! だから、お願いっ。誰も共感してくれないなんて、悲しいことを思わないで!」
これで良いのかなんて、わかんない。確証もない。
だけど、どうにか梨花ちゃんをなだめたいという気持ち一心で抱きしめつづけていたら、頭の中に自分のものではない記憶の断片が流れこんできた。
『さゆと梨花ちゃんは本当に仲良しね。毎日二人で一緒に遊んでいて飽きたりはしないの?』
『ぜーんぜん? さゆ、梨花ちゃんと遊ぶのだーいすきだもんっ。やりたいこと、いっぱいあるもんねー』
『……う、うん』
『まあまあ。梨花ちゃん、もしもさゆのことがうっとうしくなったら、ちょっとは放置してくれても良いのよ?』
『そ、そんなこと絶対にしませんっ。あたしも……、さゆのことが、好きだから』
『ふふー。だってよ、ママ?』
これは、梨花ちゃんの記憶……?
ツインテールをふわふわと揺らしてるさゆちゃんは小学三年生くらいだろうか。
放課後になるたび、ほとんど毎日のように、さゆちゃんと遊んでいたみたいだ。
お互いの家に、行き来して。
ゲームに熱中しながら、盛り上がったり。
一緒に動画を観て、たくさん笑ったり。
同じ映画を観ながら、うるうると二人して泣いてしまったり……。
そっか。
二人は、ものすごく仲が良かったんだ。
一緒にいるのが当たり前なくらい、たくさんの時間を共に過ごしてきたんだね。
なにか一つ、鮮烈に光る思い出があったわけじゃない。
梨花ちゃんにとっては、さゆちゃんと過ごす毎日が、ぜんぶ幸せだったんだ。
(……でも、もう、このころには戻れない。さゆが男の子を好きになって、あたしが、さゆを好きになったから)
あたたかな記憶に、暗い心の声が差す。
(あたしが、さゆを好きにならなければ、こんなことにはならなかったのに)
【ねえ、梨花ちゃん。そうは思わずに、思いきって、さゆちゃんに気持ちを伝えてみるのはどうかな?】
(はあ? バカなの? さゆは男の子が好きだってわかってるのに、わざわざ振られにいけってこと? 振られるだけならまだしも、もし、それで嫌われたら……それは怖いよ)
自分でも驚いた。
わたしが心の中で呼びかけたことが、そのまま梨花ちゃんに伝わったから。
【打ちあけるのが怖い気持ちは、痛いほどわかるよ。もしかしたら、さゆちゃんもすこしは驚くかもしれない。でも、二人はこんなにも仲が良かったんだもの。それだけのことで、全部が壊れちゃうとは思えないな】
(そう、かなぁ……)
【うん。それにね、さゆちゃんだって、自分の何気ない言動で大事な梨花ちゃんを苦しめつづけるのはきっと嫌だと思うんだ】
(……ほんとに、そう? あたしはさゆのことを一番に大事に思ってるけど、さゆにとってのあたしは、ただの友だちの一人なんじゃ)
【梨花ちゃん。梨花ちゃんは、友だちよりも、好きなひとのほうが特別だって思いこんでいるんじゃない?】
(それはっ……。たしかに、そうかも。あたしのほうが、さゆとずっと一緒にいたのに、突然、さゆの気持ちが塩入くんにうつったみたいで……。よく知りもしないのになんで? って思っちゃって、さびしかったんだ)
【そっか。戸惑ったし、悲しかったんだよね。でも……、二人が、一緒にたくさんの時間を過ごしてきた幼なじみだってことは変わらないよ。わたしには、梨花ちゃんの想いがただの一方通行には見えなかった。想いの形は、違うのかもしれないけど】
(そっか……。ねぇ。あなたのこと、信じても良いかな?)
【もちろんだよ。わたしは、梨花ちゃんが、さゆちゃんとずっと良い関係でいられることを願ってる。もし万が一うまくいかなくても、いつでも話を聞くよ】
(それは、心強いなぁ……。誰だかわからないけど、本当にありがとう。なんか、胸がすっきりしたような気分)
【ほんとに?】
(うん。ずっと自分でもよくわかってなかったけど……、ほんとは、誰かにさゆとのことを、じっくり聞いてほしかっただけなのかもしれない。ただの、普通の恋の話として)
そっか。
梨花ちゃんが求めていたのは、きっと、共感だったんだね。
誰にも言えない気持ちを一人きりで抱えつづけるのはとてつもなく辛いことだって、わたしもよく知っている。
わたしが話を聞くことで、すこしでも梨花ちゃんが楽な気持ちになったのなら、これ以上うれしいことはない。
(もう一度言うね、誰かもわからないあなたへ。ありがとう)
ハッとして、意識を心から現実に戻せば。
抱きしめていた梨花ちゃんから、あの不気味な黒い霧が完全におさまっていた。
気を失ったようにぐったりと、わたしの腕のなかで眠っている。
もしかして……、これは。
「……驚いたピョン。まさか、本当に『浄化の姫』が現実に存在していたなんて」
「すごい。伝説は、本当だったんだ……!」
ずっと黒い炎を放ちつづけてきた梨花ちゃんの動きが、すこしだけ鈍くなる。
アンコンシャス・バイアス……ってなに?
わたしも、こんな状況の中、首をかしげる。
「無意識の思いこみ、もしくは無意識の偏見のこと! きみは、周りの友だちの意見や、今まで接してきた恋愛ものの創作物なんかから、無意識のうちに女の子は女の子を好きになってはいけないと思いこんでしまったんじゃないか?」
「っ!」
「アンコンシャス・バイアスは、恋愛観などに限らず、誰しもが抱いているものなんだ。ひとの脳には、受けとった大量の情報から即座に判断を下すため、似たような情報やパターンと結びつけて物事を単純に理解しようとする習性がある。きみは、同性を好きになったことを気にしすぎているんじゃないか? 加藤さんが彼女を好きになったことには、なんの罪もないよ!!」
「そんなキレイごと、聞き飽きたっ!!」
瀬川くんの問いかけに、わずかに理性を取りもどした梨花ちゃんが、泣き叫ぶ。
「同性愛は、おかしいことじゃない。胸を張って良い、普通のこと。ちょっと検索すれば、いくらでもそんな綺麗ごとが並んでる! でもっ、実際、現実の多くのヒトは異性愛者で、あたしは、その価値観が普通である人々の中で暮らしてるのっっ! みんなの恋バナにだって、共感なんてできないのに、アイソ笑いをしなきゃいけない。さゆの話を聞くのも……、ほんとは辛いよ……っ」
「梨花ちゃん……」
「……あたしだって……ほんとは、さゆの恋バナを、楽しく、聞いてアゲタイのに……」
今までの苦しみを吐露するような声に、わたしの方が泣きそうになってしまった。
梨花ちゃんは、自分の気持ちに、ずっと戸惑ってきたんだね。
親友の恋を応援してあげたい。だけど、他でもない自分の気持ちが、それを邪魔する。
すっかり攻撃の手を止めた梨花ちゃんに、すかさず、それまで事の成り行きを見守っていたウサちゃんが叫んだ。
「理人、今がチャンスだぴょん! 今ならば、彼女の悪魔化を止められるッ」
「わかったよ!」
瀬川くんが低く身構えて梨花ちゃんに向けて走り出した瞬間、ゾッとした。
このままもし、あの銀の刃で梨花ちゃんが斬られたら、わたしたちは間違いなく助かるだろう。
でも……。
『長いことネガティブな気持ちをこじらせた厄介な悪魔化を解くには、記憶ごと喪失させるほかないんだよ』
このままだと、梨花ちゃんがさゆちゃんに恋していたこと自体を、忘れちゃうかもしれないってこと⁉ 無防備になってすすり泣く梨花ちゃんに、瀬川くんの銀の刃が届こうとして……、
「待って、瀬川くん!! ダメっ!!!!」
「えっ……!?」
危ないっ! 間一髪のところで、瀬川くんの動きを止めることができた。
「瀬川くんっ。わたし、梨花ちゃんの恋心の記憶がなくなっちゃうのは、なんか違うと思うんだ!!」
「……っ。僕だって、そうしないですむ方法があるのなら、そうしたいよ! だけど……加藤さんは、あまりにも負の気持ちをためこみすぎてるから、たぶん無理だ!」
不意に、ウサちゃんがさっき言っていたことが、脳裏に流星のごとくよぎった。
『浄化の姫は、対象者の痛みに寄りそうことで、記憶を損なうことなく悪魔化を解くことができると言われているんだピョン』
わたしが、そんな大層な存在だなんて、今でも思えていない。
だけど、もし。
もし、一ミリでも、梨花ちゃんの大切な記憶を守れる可能性があるのなら……!
悪魔化現象解決のプロである瀬川くんとウサちゃんを差しおいて、これはあまりにも無謀な賭けだ。
だけど……、もうわたしは、これ以上逃げたくも諦めたくもない!!
「もう……疲れた……。あたしに……近寄るなっ!!」
よろよろとした梨花ちゃんが、目の前の戸惑う瀬川くんに、再び火炎玉を投げつけようとする動きを見せた瞬間。
「待って、梨花ちゃんっ!!」
限界まで、全速力で走った。
そのまま、瀬川くんを押しのけるようにして、黒い霧につつまれた梨花ちゃんを思いっきり抱きしめる。
「は⁉ く、黒野さん! なにしてるの!」
(……放せ、放せ、放せ、放せっ!! どうせ、誰もあたしの気持ちなんて、理解しようとしてくれないっ。話したところで、共感されるわけがないんだからっ)
「そんなことないよ、梨花ちゃんっ! わたしが、いくらでも梨花ちゃんの話を聞くっ! だから、お願いっ。誰も共感してくれないなんて、悲しいことを思わないで!」
これで良いのかなんて、わかんない。確証もない。
だけど、どうにか梨花ちゃんをなだめたいという気持ち一心で抱きしめつづけていたら、頭の中に自分のものではない記憶の断片が流れこんできた。
『さゆと梨花ちゃんは本当に仲良しね。毎日二人で一緒に遊んでいて飽きたりはしないの?』
『ぜーんぜん? さゆ、梨花ちゃんと遊ぶのだーいすきだもんっ。やりたいこと、いっぱいあるもんねー』
『……う、うん』
『まあまあ。梨花ちゃん、もしもさゆのことがうっとうしくなったら、ちょっとは放置してくれても良いのよ?』
『そ、そんなこと絶対にしませんっ。あたしも……、さゆのことが、好きだから』
『ふふー。だってよ、ママ?』
これは、梨花ちゃんの記憶……?
ツインテールをふわふわと揺らしてるさゆちゃんは小学三年生くらいだろうか。
放課後になるたび、ほとんど毎日のように、さゆちゃんと遊んでいたみたいだ。
お互いの家に、行き来して。
ゲームに熱中しながら、盛り上がったり。
一緒に動画を観て、たくさん笑ったり。
同じ映画を観ながら、うるうると二人して泣いてしまったり……。
そっか。
二人は、ものすごく仲が良かったんだ。
一緒にいるのが当たり前なくらい、たくさんの時間を共に過ごしてきたんだね。
なにか一つ、鮮烈に光る思い出があったわけじゃない。
梨花ちゃんにとっては、さゆちゃんと過ごす毎日が、ぜんぶ幸せだったんだ。
(……でも、もう、このころには戻れない。さゆが男の子を好きになって、あたしが、さゆを好きになったから)
あたたかな記憶に、暗い心の声が差す。
(あたしが、さゆを好きにならなければ、こんなことにはならなかったのに)
【ねえ、梨花ちゃん。そうは思わずに、思いきって、さゆちゃんに気持ちを伝えてみるのはどうかな?】
(はあ? バカなの? さゆは男の子が好きだってわかってるのに、わざわざ振られにいけってこと? 振られるだけならまだしも、もし、それで嫌われたら……それは怖いよ)
自分でも驚いた。
わたしが心の中で呼びかけたことが、そのまま梨花ちゃんに伝わったから。
【打ちあけるのが怖い気持ちは、痛いほどわかるよ。もしかしたら、さゆちゃんもすこしは驚くかもしれない。でも、二人はこんなにも仲が良かったんだもの。それだけのことで、全部が壊れちゃうとは思えないな】
(そう、かなぁ……)
【うん。それにね、さゆちゃんだって、自分の何気ない言動で大事な梨花ちゃんを苦しめつづけるのはきっと嫌だと思うんだ】
(……ほんとに、そう? あたしはさゆのことを一番に大事に思ってるけど、さゆにとってのあたしは、ただの友だちの一人なんじゃ)
【梨花ちゃん。梨花ちゃんは、友だちよりも、好きなひとのほうが特別だって思いこんでいるんじゃない?】
(それはっ……。たしかに、そうかも。あたしのほうが、さゆとずっと一緒にいたのに、突然、さゆの気持ちが塩入くんにうつったみたいで……。よく知りもしないのになんで? って思っちゃって、さびしかったんだ)
【そっか。戸惑ったし、悲しかったんだよね。でも……、二人が、一緒にたくさんの時間を過ごしてきた幼なじみだってことは変わらないよ。わたしには、梨花ちゃんの想いがただの一方通行には見えなかった。想いの形は、違うのかもしれないけど】
(そっか……。ねぇ。あなたのこと、信じても良いかな?)
【もちろんだよ。わたしは、梨花ちゃんが、さゆちゃんとずっと良い関係でいられることを願ってる。もし万が一うまくいかなくても、いつでも話を聞くよ】
(それは、心強いなぁ……。誰だかわからないけど、本当にありがとう。なんか、胸がすっきりしたような気分)
【ほんとに?】
(うん。ずっと自分でもよくわかってなかったけど……、ほんとは、誰かにさゆとのことを、じっくり聞いてほしかっただけなのかもしれない。ただの、普通の恋の話として)
そっか。
梨花ちゃんが求めていたのは、きっと、共感だったんだね。
誰にも言えない気持ちを一人きりで抱えつづけるのはとてつもなく辛いことだって、わたしもよく知っている。
わたしが話を聞くことで、すこしでも梨花ちゃんが楽な気持ちになったのなら、これ以上うれしいことはない。
(もう一度言うね、誰かもわからないあなたへ。ありがとう)
ハッとして、意識を心から現実に戻せば。
抱きしめていた梨花ちゃんから、あの不気味な黒い霧が完全におさまっていた。
気を失ったようにぐったりと、わたしの腕のなかで眠っている。
もしかして……、これは。
「……驚いたピョン。まさか、本当に『浄化の姫』が現実に存在していたなんて」
「すごい。伝説は、本当だったんだ……!」


