「ま、まさか、幽霊じゃないからに?」
ドキリとした。頭ではわかっていても、苦手なものや怖いものはわたしにだってある。でも、感情に流されるというのはわたしらしくないよね。
「幽霊じゃないわ。論理的に考えて、きっとただの女の子よ」
わたしは自分に言い聞かせるように言った。それから、ゆっくりと女の子に歩み寄る。心臓の鼓動がだんだんとはやくなっているのが自分でもわかる。
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
まだ新しい赤色のランドセルを背負って黄色の帽子をかぶっている。見たところ1年生か2年生よね。品のある顏立ちをした三つ編みの少女で、よそ行きみたいなレースのついた真っ白なブラウスを着ているわ。こんな小さな子が遅くまで何をしているんだろう。不思議だわ。
「あのね、ママに借りてたネックレスが壊れちゃったの」
ほっとした。なんだ、この子はお化けじゃない。でも、うつむいたままの少女に何と声をかければ良いのかわたしにはわからない。力になりたいのに、なのになんにもできないの。
「ママは許してくれるよ」
自然と口から出たのはそんな言葉。うん、わたしのママがもし生きていたのならきっと許してくれるはず。
「そうかな、ママはこのネックレスが大事なものだって言っていたけれど……」
「だいじょうぶだよ。正直に話せばきっと許してくれる」
だけど、少女はあんまり納得していない様子だった。
「無責任にそんなこと言って。わたし2年生なんだから誤魔化されないもん。正直に話してもママは怒るんだ」
くりっとした愛くるしい瞳をうるませてじっとこちらを見つめてくる。
「たしかに……論理的に考えてそういうこともありえるわよね」
「でしょう?」
一人っ子のわたしは相手が2年生だからといって子供扱いはできないものなんだなと初めて知った。妹がいたら一緒にオシャレを楽しんだり、遊びに出かけたりできるのかな。
「だけどさ、お母さんは心配してるよ。だって、絶対にネックレスよりあなたの方が大切なんだから……」
「そうらに! きっと心配してるらによ。マナちゃん、なんとかそのネックレスを直してあげればその子も帰る勇気がでるかもしれないらに」
らにちゃんがしゃべると、少女は目を丸くした。
「わぁ、このぬいぐるみしゃべるんだ! 可愛いね!」
2年生の女の子はらにちゃんのぷにっぷになふんわりボディに夢中になって泣きやんじゃった。よかった。らにちゃんに助けられちゃったな。
「あ! わたしの持っている道具でこの子のネックレス直せるかもしれない!」
「「ええええっ!!」」
ふふっ、やっぱりふたりとも驚いてるな。
⭐︎パズルを解いてネックレスを直してあげよう!⭐︎
持っていたふたつの小さな磁石を切れたチェーンにセロテープでくっつけた。磁石というのはS極、N極があって、N極とN極、S極とS極は反発しあうけれど、N極とS極ならくっつくんだ。だから、切れたチェーンにふたつの磁石をS極とN極が向き合うようにセロテープで軽くっつければ直るというわけ。
「くっついた! すごい!! こんな使い方もあるんだ」
「この原理を応用して、磁石を利用したイヤリングなんかもあるんだらに」
おしゃれに詳しいらにちゃんったら得意気ね。ひらめいたのはわたしなんだけれどな。
「怒られちゃうかもしれないけれどさ。でもね、勇気を出して帰ったほうがいいよ。論理的に考えてママが大切なのはネックレスよりあなただよ」
「そうらに! きみはママにとって特別な子なんだらに!」
ふふっ、らにちゃんたら、さっきわたしが言ったことをこの子にも言ってる。
「わかった……あたし、ママにちゃんと言うよ」
「うん! 偉いよ!」
「ありがとう、お姉ちゃん! それにらにちゃん!」
少女に笑顔が戻ったとき、背の高いけやきの木から黒いネコが降りてきたの。いや、よく見るとネコのぬいぐるみ?
「せっかくオレが人間を困らせたっていうのに解決したニャ?」
「もしかして、ロボット?」
女の子が泣き出しそうな顏でわたしの服を引っ張った。
「あのネコさんがママのネックレスを壊したの」
「そうニャ、オレがやったんだニャ! でもオレはネコじゃないニャ! ネコのロボットニャ」
びゅんとまるで風みたいにすばしっこく黒ネコは駆けて、少女の手から強引にネックレスを奪おうとした!
そんな様子を見て、慌ててわたしが少女をかばう。
「何でこんなことをするの! それはこの子とママの大切なものなんだから!」
「嫌だニャ、オレは自分を棄てた人間のことなんてどうでもいいニャ! それに人間を困らせるようにプログラムされた今は開放的な気分ニャ」
「え、人間を困らせるようにプログラムされたって、どういうこと?」
「さあニャ」
「マナちゃん、コンピューターウィルスのせいなんじゃないからに? ふつうのロボットは人間を襲えないようにプログラムされているはずだらに」
人間の体で病気を起こして悪さをするウィルスのように、コンピューターの中で悪さをするコンピューターウィルスっていうものがある。
コンピューターのプログラムを書きかえてたりして悪さをたくらむ人をクラッカーって言って、きっとネコのロボットさんはクラッカーにプログラムを書き換えられたんだ。
わたしはそういう悪さをする人間が許せない。自分は隠れて罪のないロボットに犯罪をさせるなんて卑怯者のする最低の行為じゃない!!
ドキリとした。頭ではわかっていても、苦手なものや怖いものはわたしにだってある。でも、感情に流されるというのはわたしらしくないよね。
「幽霊じゃないわ。論理的に考えて、きっとただの女の子よ」
わたしは自分に言い聞かせるように言った。それから、ゆっくりと女の子に歩み寄る。心臓の鼓動がだんだんとはやくなっているのが自分でもわかる。
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
まだ新しい赤色のランドセルを背負って黄色の帽子をかぶっている。見たところ1年生か2年生よね。品のある顏立ちをした三つ編みの少女で、よそ行きみたいなレースのついた真っ白なブラウスを着ているわ。こんな小さな子が遅くまで何をしているんだろう。不思議だわ。
「あのね、ママに借りてたネックレスが壊れちゃったの」
ほっとした。なんだ、この子はお化けじゃない。でも、うつむいたままの少女に何と声をかければ良いのかわたしにはわからない。力になりたいのに、なのになんにもできないの。
「ママは許してくれるよ」
自然と口から出たのはそんな言葉。うん、わたしのママがもし生きていたのならきっと許してくれるはず。
「そうかな、ママはこのネックレスが大事なものだって言っていたけれど……」
「だいじょうぶだよ。正直に話せばきっと許してくれる」
だけど、少女はあんまり納得していない様子だった。
「無責任にそんなこと言って。わたし2年生なんだから誤魔化されないもん。正直に話してもママは怒るんだ」
くりっとした愛くるしい瞳をうるませてじっとこちらを見つめてくる。
「たしかに……論理的に考えてそういうこともありえるわよね」
「でしょう?」
一人っ子のわたしは相手が2年生だからといって子供扱いはできないものなんだなと初めて知った。妹がいたら一緒にオシャレを楽しんだり、遊びに出かけたりできるのかな。
「だけどさ、お母さんは心配してるよ。だって、絶対にネックレスよりあなたの方が大切なんだから……」
「そうらに! きっと心配してるらによ。マナちゃん、なんとかそのネックレスを直してあげればその子も帰る勇気がでるかもしれないらに」
らにちゃんがしゃべると、少女は目を丸くした。
「わぁ、このぬいぐるみしゃべるんだ! 可愛いね!」
2年生の女の子はらにちゃんのぷにっぷになふんわりボディに夢中になって泣きやんじゃった。よかった。らにちゃんに助けられちゃったな。
「あ! わたしの持っている道具でこの子のネックレス直せるかもしれない!」
「「ええええっ!!」」
ふふっ、やっぱりふたりとも驚いてるな。
⭐︎パズルを解いてネックレスを直してあげよう!⭐︎
持っていたふたつの小さな磁石を切れたチェーンにセロテープでくっつけた。磁石というのはS極、N極があって、N極とN極、S極とS極は反発しあうけれど、N極とS極ならくっつくんだ。だから、切れたチェーンにふたつの磁石をS極とN極が向き合うようにセロテープで軽くっつければ直るというわけ。
「くっついた! すごい!! こんな使い方もあるんだ」
「この原理を応用して、磁石を利用したイヤリングなんかもあるんだらに」
おしゃれに詳しいらにちゃんったら得意気ね。ひらめいたのはわたしなんだけれどな。
「怒られちゃうかもしれないけれどさ。でもね、勇気を出して帰ったほうがいいよ。論理的に考えてママが大切なのはネックレスよりあなただよ」
「そうらに! きみはママにとって特別な子なんだらに!」
ふふっ、らにちゃんたら、さっきわたしが言ったことをこの子にも言ってる。
「わかった……あたし、ママにちゃんと言うよ」
「うん! 偉いよ!」
「ありがとう、お姉ちゃん! それにらにちゃん!」
少女に笑顔が戻ったとき、背の高いけやきの木から黒いネコが降りてきたの。いや、よく見るとネコのぬいぐるみ?
「せっかくオレが人間を困らせたっていうのに解決したニャ?」
「もしかして、ロボット?」
女の子が泣き出しそうな顏でわたしの服を引っ張った。
「あのネコさんがママのネックレスを壊したの」
「そうニャ、オレがやったんだニャ! でもオレはネコじゃないニャ! ネコのロボットニャ」
びゅんとまるで風みたいにすばしっこく黒ネコは駆けて、少女の手から強引にネックレスを奪おうとした!
そんな様子を見て、慌ててわたしが少女をかばう。
「何でこんなことをするの! それはこの子とママの大切なものなんだから!」
「嫌だニャ、オレは自分を棄てた人間のことなんてどうでもいいニャ! それに人間を困らせるようにプログラムされた今は開放的な気分ニャ」
「え、人間を困らせるようにプログラムされたって、どういうこと?」
「さあニャ」
「マナちゃん、コンピューターウィルスのせいなんじゃないからに? ふつうのロボットは人間を襲えないようにプログラムされているはずだらに」
人間の体で病気を起こして悪さをするウィルスのように、コンピューターの中で悪さをするコンピューターウィルスっていうものがある。
コンピューターのプログラムを書きかえてたりして悪さをたくらむ人をクラッカーって言って、きっとネコのロボットさんはクラッカーにプログラムを書き換えられたんだ。
わたしはそういう悪さをする人間が許せない。自分は隠れて罪のないロボットに犯罪をさせるなんて卑怯者のする最低の行為じゃない!!



