もう、らにちゃんったら、なんだかずっと、ぷよぷよぽよぽよと図書室の机の上を飛び跳ねて喜んでいる。かわいいな。
「あのさ、もしかしたらだよ? らにちゃんみたいな人工知能のロボットが捨てられているのかもしれない。それで何か悪さをしているのかも。もしそうだとしたらさ、なんだかかわいそうじゃない? だって、みんな人間と同じように考えられるのよ。それって、お母さんやお父さんに捨てられるようなものだよ。
「そういえばマナちゃんのパパはよく動物を拾ってくるらにね~」
 そうね。パパが言うには、人間が飼っていた動物を捨てることによって、そこに住んでいた動物たちの生活が上手くいかなくなっちゃうんだって。
 例えば小さい鳥さんが住んでいた森に大きな鳥さんが入ってきたら、小さな鳥さんは大きな鳥さんにエサをとられちゃって生活ができなくなっちゃう。そういうパパの話は論理的に考えて当たっていると思う。そういうのを生態系の破壊というの。
「もしかしたら学校にも捨てられたロボットがいるのかな……」
 その時、背後に殺気だった気配を感じた。しまった、ここ図書室じゃない。熱中すると周りが見えなくなっちゃう癖をなおしなさいって通知表にも書かれていたっけ。
「ま~な~か~さ~ん……あなたは図書委員でしょう。みんなのお手本になるように図書室は静かに利用しましょうね」
 声は優しいけれど、司書さんの目はちっとも笑っていなかった。
「雪村(ゆきむら)先生、ごめんなさい……」
「わかればよろしい」
 真っ赤なリボンで髪を結んだわたしの頭を軽く撫でる。司書さんのことを先生と呼ぶのは正確ではないのかもしれないけれど、司書さんは生徒から親しみを込めて雪村先生と呼ばれている。そんな雪村先生に撫でられたことが嬉しくて、わたしは思わず先生の後ろ姿を目で追った。
 小学校ではなるべく紙の本に触れて物を大事にしましょうということで、雪村先生は図書室の本をまるで生き物のように丁寧に扱っている。ウェーブのかかった黒髪をした若くて綺麗な女の司書さん。どことなくもういないはずのママに雰囲気が似ている。優しいところも、怒ると怖いところも、ママにそっくり!
 それにしても大人の女性に頭を撫でられたのはいつ以来だろう。