黒百合の女帝

 という願い虚しく、足音が突然聞こえてくる。

音の間隔は短く、足音は大きくなっていく。

全速力でこちらに向かっているのだろう。

周囲を見回し、居場所を突き止めようとする。

そんな中、突然後ろが強く引っ張られた。

いきなりの出来事に、引っ張る何かを掴み取る。

そして無理やり引き剥がし、後ろに振り向く。

そこには、一人の男が立っていた。


 帽子を深く被り、マスクで顔を隠している。

身長は170前半。細身で立ち方が不安定。

そして街灯を反射する、鋭い出刃包丁。

 「ユリさん。今すぐ逃げて、警察に通報を」

彼女を隠すように立ち、低い声で命令する。

が、彼女は走り出さず、俺の腕を掴むだけ。

どうやら、足がすくんで走れないようだ。

振り向いて様子を確認したいが、男から目を離せない。