黒百合の女帝

 「一面中が水母(クラゲ)の壁だね。綺麗。」

照明で色付く海月を一瞥し、彼の方を向く。

どうやら、彼はその光景に見惚れているようだ。

水槽の壁に住む個体を、目で追っている。

なにが楽しいのか。

今日一番嬉しそうな彼に、疑問を抱く。

一応綺麗だと言っておいたが、本心ではない。

水母への認識は、厄介者の一点のみ。

しかし世間では綺麗、という評価が多いようだ。

ならば、綺麗という台詞が妥当なのだろうが。

理解に苦しみながら、海月の観察を続ける。


 すると突然、ラクアが話し掛けてきた。

振り向けば、彼は珍しくこちらを直視していた。

その黒髪が、照明に照らされ青く反射する。

 「手を繋いでもいいか」

 「え、なんで?」

彼の発案に唖然とし、首を傾げてみせる。

それらは全て計算され尽くした、偽りの仕草。

なのにも拘らず、彼はそれを本心と信じ込む。

そして、恥ずかしげもなくこう言ってみせるのだ。

 「繋ぎたくなったからだ」と。