黒百合の女帝

 7階はキャバクラだった。

初めて味わう空気に、心臓が鳴り止まない。

 「トシアキくん、僕、お金なんてなくて……」

 「シャンパンなんて開けないからだいじょーぶ」

僕の震え声などお構いなしに、ずんずん進む彼。

お店の人にすれ違うたび、肩を縮こまらせる。

が、足を止めた先には、誰一人いなかった。

 「倉庫……って、お店の備品が置いてあるってこと?」

扉にかかった板を指しながら、そう尋ねれば。

 「それが、そっちの倉庫じゃないんだよね〜」

という得意げな返事ののち、彼は扉を押した。


 扉の隙間から、長い黒髪が見えた。

それだけで、涙が溢れそうになってしまう。

ようやっと会えた。ずっと会いたかった。

 「ユリちゃんっ……!」

 「ああ、久しぶり。ヤユ。」

感動の再会、とはいかなかった。

彼女の表情が垣間見えた途端、涙が引っ込む。

その真っ黒な瞳は、僕を蔑むみたいで。

冷たい口調は、僕を突き放すみたいで。

ぜんぜん、僕の知ってるユリちゃんじゃない。