黒百合の女帝

 溜息を我慢し続け、約五分後。

目的地の廃工場に着き、それを見上げる。

工場と言ってもとても小さい、町外れの建物。

老朽化が進んでいるようで、今にも崩れそうだ。

中に入る前に、パーカーのフードを深く被る。

髪の毛は中に仕舞い、黒マスクも着けた。

仕上げに黒いニトリル手袋を嵌め、準備完了。


 腰に手を当て、ラクアに敵の情報を伝える。

 「ここが今回潰す族の拠点だよ。敵は八人……って、ちょっと待ってよ。」

私を無視し、建物に入ろうとするラクア。

その行動に待ったを掛けると、彼が振り向く。

非常に冷静なその態度は、一ヶ月前の彼を想起させた。

 「ユリは残ってろ。俺が行く」

 「そういう訳にもいかないの。私から行くって言い出したんだから。」

 「先は危ない」

 「ラクアが守ってくれるんじゃないの?」

瞬発的な反論に、彼は押し黙る。

その隙に、更なる説得を試みる。

 「私も麓冬の女帝として、功績を残したいの。」

 「その必要はない」

 「必要だよ。じゃなきゃ、私はまた見捨てられちゃう。」

二度目の沈黙だった。

彼は相変わらずの無表情で、私を直視する。

そして再び歩みを進めたかと思えば、一言。

 「勝手にしろ」