【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

「……嫌だったら、拒んでください」

 ポケットからハンカチに包まれていたリングを取り出し、左の薬指にはめようとする。
 拒めるはずがなかった。胸がキュウっと切なくて、苦しくて。
 私はこんなにも桐人さんに惹かれていたのだと、ようやくわかった。

 いつから用意していたのだろう、そのプラチナのリングは、ほんの少しだけ、サイズが大きくて。
 私は目に涙を溜めながら、クスッと笑った。

「……やっと、笑ってくれましたね」
「あ……」

 自分はそんなに長く笑っていなかったのか、と思った瞬間、
 ふわりと桐人さんの両腕に包まれた。

「今度、一緒にサイズ直しに行きましょう」
「……はい」

 耳元で優しく言われて、私は素直に返事をする。
 
 あの時、桐人さんが話を聞いてくれていなかったら、私は今ここにいないだろう。
 いや、そもそも裕貴の秘書にならなければ、桐人さんと出会うこともなかった。
 人の縁とは不思議なものだ。私たちの人生は、思いがけない出会いや出来事で繋がっていく。
 だからこそ、その縁を大切にしたい。
 
 桐人さんの顔が近づいてくる。
 目を閉じると、唇が触れ合った。
 その一瞬、世界が静止し、私たちの心がひとつになったように感じた。

ー 完 ー