【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

 安浦先生に会えるとか、そんな下心で引き受けるべきじゃない仕事なのはわかっている。
 でも、このまま就職活動をしてもどこにも雇ってもらえない気がする。
 秘書なんて、務まるかどうかわからないけれど、裕貴の役に立てるなら。

「わかった。私、秘書やるよ!」
「本当に? やった、ありがとう!」

 心底嬉しそうに笑った裕貴は、そのまま勢いよく私を抱きしめてきた。

「ちょっと、オオゲサ! でも……私こそありがとう。どうせ同情だと思ってたから」
「違うってば。俺は……おまえと一緒に仕事できるのが、嬉しいだけ」

 その言葉に、少しだけ私が戸惑っていると、裕貴はジャケットの内ポケットに手を入れた。

「あの、さ。もうひとつ提案があって」

 取り出したのは、リングケースだった。
 裕貴がケースを開けると、小さなダイヤモンドが煌めく指輪が入っていた。
 いくら鈍い私だって、その意味くらいはわかる。
 
「今すぐってわけじゃないけど……。結婚を前提に俺と一緒に暮らしてほしい。……ダメか?」

 一瞬、時間が止まったようだった。
 裕貴が、こんな風に自分の未来を語るなんて、思ってもみなかった。
 でも、胸の奥が温かくなるのを感じたのも事実だった。

 裕貴はモテるし、仕事もできる。社長という肩書きだってある。
 それに比べて私は、仕事も見つからず、くすぶってばかりで。
 本当に、私なんかでいいんだろうか……?
 ああ、いけない。また「私なんて」って言ったら、裕貴に叱られてしまう。
 私は、俯き加減で思いっきり首を横に振って、顔を上げた。
 
「ううん、ダメじゃない」

 そう返すと、裕貴は微笑んで、私の右手薬指に指輪をはめてくれた。
 左手は、結婚する時に……ということなのだろう。
 
 これが、ふたりの新しいスタートになると思っていた。
 これから、甘酸っぱくてくすぐったい、そんな生活が待っていると信じて疑わなかった。
 しかし、数ヶ月も経った頃……。