【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

　震えながら住むところの問題を伝えると、桐人さんは淡く微笑んだ。

「父さん」
「うむ……」

　安浦先生は、桐人さんの言うことを察するように、自身の顎髭を撫でて言った。
　
「どうだろう、真宮くん。しばらくの間、うちへ来てみては」
「えっ？」
「臨時の洗濯係としてではなく、うちに居候して、思う存分小説を書いてもらえれば」
「ちょ、ちょっと待ってください！　それはさすがに……」

　私にとっては、とてもありがたい申し出だ。
　でも、さすがに安浦先生と桐人さん、お二人と一緒に暮らすのは申し訳なさすぎる。
　そんな私の不安を汲み取るように、桐人さんが言う。

「部屋は空いていますし、もし心配なら、内側から鍵をかけてもらっても構いません。それに……いつか、ちゃんとしたお礼をしようと思っていたんです。こんな形で返せるなら、僕としても本望なのですが」

　桐人さんが、キラキラとした眼差しを向けてくる。
　この曇りのない瞳と淡い笑顔で言われたら、すぐに首を縦に振ってしまいそうだ。
　どれだけ自分の意志を強く持とうとしても、その優美な笑顔と言葉に心が揺らいでしまう。