【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

「僕は、あなたに一度助けられていますから。言ったでしょう? 商談がダメになっていたかもしれないと。あの時、本当に社運がかかっていたと言っても過言ではないんです」

 その言葉に誇張の響きはなかった。
 思い返せば、あの時はただの偶然にすぎなかった。けれど、桐人さんにとっては偶然ではなく、大切な意味を持つ出来事だったのだ。胸の奥で張り詰めていた糸が、ふっと緩んだ気がした。
 
(……桐人さんを、信じてみよう)
 
 迷いは完全に消えたわけではない。だけど不安の霧を押し分けるように、その言葉が私の背中を押してくれる。
 私はまず、安浦先生に話すことを決意した。