【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

「どうしてですか？　安浦先生に知れたら、穂鷹出版に迷惑がかかります。これは、私と裕貴の問題です」
「そうかもしれません。ですが、仮にも出版社の社長が原稿を破るなど、あってはならないことです」

　たしかに桐人さんの言う通りかもしれない。
　でも、もしそれで安浦先生と穂鷹出版との間に溝ができてしまったら……。
　
「原稿は作家の命です。真宮さん、報復しましょう。あなたは、家を飛び出さなければならないほどのことをされたんです」

　報復……。そこまで考えたことがなかった。
　ただ、小説を完成させて見返すことができれば。
　それだけで、良かったのに。
　けれど、桐人さんの真剣な眼差しが、胸の奥深くまで刺さってくる。

　彼の温かい手が、膝の上に置いていた私の手に重なる。
　そのぬくもりは、不安で凍りつきそうだった私の心を少しずつ溶かしていく。

「僕が力になります。必ずあなたを守ります。だから、父に協力してもらいましょう」
「どうして、私にそこまで……」

　掠れた声で問うと、桐人さんの手に力が入る。