【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

 私は、今までのことを桐人さんに打ち明けた。
 桐人さんは、隣で私のたどたどしい説明を黙って聞いてくれた。
 
「原稿のことはいいんです。書き直せばなんとかなりますから。でも、まさか裕貴がそんなことをする人だったなんて、それがショックで……」
 
 パソコンのデータは消されてしまったが、鞄の中に入っているメモリーが頼みの綱だ。
 それがなかったら、もう一度書こうなんて思わなかったかもしれない。
 
「それは……ひどいですね。しかし、真宮さんは、これからどうしたいのですか?」
「どうしたい……?」
「そうです。どうするかを決めるのは、真宮さんですよ」

 そう言われて、私は自分がまだ混乱の最中(さなか)にいることに気がついた。
 この問題を、ひとつひとつクリアしていかなければならない。
 裕貴のことも、好きなのに本当に許せなくて。
 もう、わけがわからない。

 桐人さんはしばらく黙って、見守るように私の隣にいてくれた。
 それから私の方を見て真剣な顔になったかと思うと、驚くべき発言をした。

「真宮さん。やはりこの件、父にも話しましょう」

 耳を疑って、反射的に顔を上げる。