【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

 *
 
「今日は、どうしたのかね?」

 安浦先生の病室に入って挨拶するや否や、そう言われた。
 
「……えっ?」
「いや何、元気がないように見えてね」
「そ、そうですか……? あ、そうだ。夜遅くまで小説書いていたからかもしれないです」

 一体、どこまでお見通しなんだろうというくらい、先生は私をよく見てくださってる。
 昨日のことを思い出して涙が込み上げるけど、眠い目を擦るようにして誤魔化す。
 そうだ、先生と約束していたんだった。

「そうかそうか。完成を楽しみにしているよ」

 先生は、顎髭を指でなぞりながら、朗らかに笑った。
 
「そうだ、さっき裕貴君……穂鷹社長が来てね。君が来ていないかと言われたんだが、何かあったのかね?」
「えっ? 社長が……?」

 思わず視線が泳ぎ、床の一点を見つめる。
 危なかった。そうか、私のことを探しているんだ。
 鉢合わせなくて良かった……。
 先生の言い方からすると、裕貴も詳しい話はしていないようだ。
 まさか、原稿を破って婚約者に逃げられたなんて、口が裂けても言えないのだろう。