*
「今日は、どうしたのかね?」
安浦先生の病室に入って挨拶するや否や、そう言われた。
「……えっ?」
「いや何、元気がないように見えてね」
「そ、そうですか……? あ、そうだ。夜遅くまで小説書いていたからかもしれないです」
一体、どこまでお見通しなんだろうというくらい、先生は私をよく見てくださってる。
昨日のことを思い出して涙が込み上げるけど、眠い目を擦るようにして誤魔化す。
そうだ、先生と約束していたんだった。
「そうかそうか。完成を楽しみにしているよ」
先生は、顎髭を指でなぞりながら、朗らかに笑った。
「そうだ、さっき裕貴君……穂鷹社長が来てね。君が来ていないかと言われたんだが、何かあったのかね?」
「えっ? 社長が……?」
思わず視線が泳ぎ、床の一点を見つめる。
危なかった。そうか、私のことを探しているんだ。
鉢合わせなくて良かった……。
先生の言い方からすると、裕貴も詳しい話はしていないようだ。
まさか、原稿を破って婚約者に逃げられたなんて、口が裂けても言えないのだろう。
「今日は、どうしたのかね?」
安浦先生の病室に入って挨拶するや否や、そう言われた。
「……えっ?」
「いや何、元気がないように見えてね」
「そ、そうですか……? あ、そうだ。夜遅くまで小説書いていたからかもしれないです」
一体、どこまでお見通しなんだろうというくらい、先生は私をよく見てくださってる。
昨日のことを思い出して涙が込み上げるけど、眠い目を擦るようにして誤魔化す。
そうだ、先生と約束していたんだった。
「そうかそうか。完成を楽しみにしているよ」
先生は、顎髭を指でなぞりながら、朗らかに笑った。
「そうだ、さっき裕貴君……穂鷹社長が来てね。君が来ていないかと言われたんだが、何かあったのかね?」
「えっ? 社長が……?」
思わず視線が泳ぎ、床の一点を見つめる。
危なかった。そうか、私のことを探しているんだ。
鉢合わせなくて良かった……。
先生の言い方からすると、裕貴も詳しい話はしていないようだ。
まさか、原稿を破って婚約者に逃げられたなんて、口が裂けても言えないのだろう。



