▽
よし、これで七周目。
だけど、スタートから走っていた子たちは、二十二周目に差しかかっている。
リタイアせずに走り続けているのは、杉本さんとそのお友達だけだ。あとの子たちは、トラックの内側にへたりこんだり、木陰で休んだりしている。
なんとか、杉本さんに追いつかなきゃ。
その一心で走っていると、
「そんなに必死に走っても、ムダよ」
ペースを落とした杉本さんが、わざわざ並走してきた。
その口調と態度は、あいかわらずの攻撃的なものだ。
仲直りの握手をしにきた、ってわけじゃなさそう。
きっと、なにかたくらんでる。
警戒心をつのらせながらも、
「一緒に走ってた友達のところに行かなくていいの?」
遠目にも、苦しそうに見えるけど。
「サチコのことはいいのよ。それよりも、今はあんたの話」
杉本さんは、狡猾な蛇のように目を細めて、
「どれだけがんばっても、あんたのがんばりは報われない。だってあんたは、『才能のない下手くそ』なんだから」
嘲笑交じりに告げられた言葉に、ドクンと心臓が跳ねる。
「どう、して……」
杉本さんが、それを……。
思いがけない角度から刺されて、思わず足を止めそうになる。
それでも、どうにか足を前に出して、走り続ける。
こんなことくらいで……動揺してちゃ、ダメだ。
勝つために……前に、進み続けないと。
自分にそう言い聞かせて、必死に平常心を保とうとしていると、
「あはっ。その反応、やっぱり本当なんだ?」
杉本さんは、私の瞳に走る動揺を見逃さず、
「聞いたわよ。あんたって、バスケが下手くそだから、チームを追い出されたんでしよ?あんたは、チームの足手まといで、邪魔だからって」
「……っ」
それは、数ヶ月前に私が、チームメイトから実際に言われたことだった。
『才能もない下手くそのくせに。あんたのせいで!』
私を睨みつける渚の目には、強い憎しみがこもっていた。あの日以来、何度も何度も夢に見ては、消えない後海に襲われる。
もしも私が、もっと早く……。
あの日の出来事がフラッシュバックして、きゅっと唇を噛みしめる。
うつむいて、押し黙ることしかできない私に、
「図星をつかれたからって、だんまり?」
杉本さんは、嬉々として続ける。
「言っとくけど、あんたのことなんてだれも必要としてないから。そもそも、チームを追い出されるような人間が、だれかに必要とされるわけないでしょ?」
杉本さんが放つ言葉の一つ一つが、鋭利な刃物みたいに私の心をえぐる。
「本当は自覚してるんでしょ?自分はだれからも必要とされない、いらない人間だって」
「わた、しは……」
ぎしりと、心臓がきしむような音を立てる。
反論の言葉が浮かばないまま、顔を上げた時、
「えっ⁉︎」
すぐ目の前に、杉本さんのお友達のサチコさんが迫っていた。
距離が近くて驚いたものの、接触しては、いない。
だけどサチコさんは、「きゃあっ!」と、まるで私に突き飛ばされたかのように、つんのめって前に倒れる。
その光景は、スローモーションみたいに見えて、
「……っ」
私はすんでのところで、目の前で転ぶサチコさんの身体をよける。
……そう。たしかによけたはずだったんだけど、
「才能のないグズは、引っこんでて」
そんなさきやき声とともに、
「……っ⁉︎」
反対側から伸びてきた杉本さんの足が、私の左足を引っかけた。
伸ばした手の先ーー。地面が、迫る。
よし、これで七周目。
だけど、スタートから走っていた子たちは、二十二周目に差しかかっている。
リタイアせずに走り続けているのは、杉本さんとそのお友達だけだ。あとの子たちは、トラックの内側にへたりこんだり、木陰で休んだりしている。
なんとか、杉本さんに追いつかなきゃ。
その一心で走っていると、
「そんなに必死に走っても、ムダよ」
ペースを落とした杉本さんが、わざわざ並走してきた。
その口調と態度は、あいかわらずの攻撃的なものだ。
仲直りの握手をしにきた、ってわけじゃなさそう。
きっと、なにかたくらんでる。
警戒心をつのらせながらも、
「一緒に走ってた友達のところに行かなくていいの?」
遠目にも、苦しそうに見えるけど。
「サチコのことはいいのよ。それよりも、今はあんたの話」
杉本さんは、狡猾な蛇のように目を細めて、
「どれだけがんばっても、あんたのがんばりは報われない。だってあんたは、『才能のない下手くそ』なんだから」
嘲笑交じりに告げられた言葉に、ドクンと心臓が跳ねる。
「どう、して……」
杉本さんが、それを……。
思いがけない角度から刺されて、思わず足を止めそうになる。
それでも、どうにか足を前に出して、走り続ける。
こんなことくらいで……動揺してちゃ、ダメだ。
勝つために……前に、進み続けないと。
自分にそう言い聞かせて、必死に平常心を保とうとしていると、
「あはっ。その反応、やっぱり本当なんだ?」
杉本さんは、私の瞳に走る動揺を見逃さず、
「聞いたわよ。あんたって、バスケが下手くそだから、チームを追い出されたんでしよ?あんたは、チームの足手まといで、邪魔だからって」
「……っ」
それは、数ヶ月前に私が、チームメイトから実際に言われたことだった。
『才能もない下手くそのくせに。あんたのせいで!』
私を睨みつける渚の目には、強い憎しみがこもっていた。あの日以来、何度も何度も夢に見ては、消えない後海に襲われる。
もしも私が、もっと早く……。
あの日の出来事がフラッシュバックして、きゅっと唇を噛みしめる。
うつむいて、押し黙ることしかできない私に、
「図星をつかれたからって、だんまり?」
杉本さんは、嬉々として続ける。
「言っとくけど、あんたのことなんてだれも必要としてないから。そもそも、チームを追い出されるような人間が、だれかに必要とされるわけないでしょ?」
杉本さんが放つ言葉の一つ一つが、鋭利な刃物みたいに私の心をえぐる。
「本当は自覚してるんでしょ?自分はだれからも必要とされない、いらない人間だって」
「わた、しは……」
ぎしりと、心臓がきしむような音を立てる。
反論の言葉が浮かばないまま、顔を上げた時、
「えっ⁉︎」
すぐ目の前に、杉本さんのお友達のサチコさんが迫っていた。
距離が近くて驚いたものの、接触しては、いない。
だけどサチコさんは、「きゃあっ!」と、まるで私に突き飛ばされたかのように、つんのめって前に倒れる。
その光景は、スローモーションみたいに見えて、
「……っ」
私はすんでのところで、目の前で転ぶサチコさんの身体をよける。
……そう。たしかによけたはずだったんだけど、
「才能のないグズは、引っこんでて」
そんなさきやき声とともに、
「……っ⁉︎」
反対側から伸びてきた杉本さんの足が、私の左足を引っかけた。
伸ばした手の先ーー。地面が、迫る。

