春ヶ丘中学校男子バスケ部〜マネージャーになんてなりません⁉︎〜

【6】
「おっ。女子、まだ走ってる」
「残ってるのだれ?」
外周を終えた男子バスケ部の部員たちは、フェンス越しにグラウンドを見る。
午後五時過ぎのグラウンドには、日が落ちはじめて、冷たくなった風が吹いていた。
「あっ、ゆいまだ残ってんじゃん!気張れ、ゆいー!」
ガクは、ランニングの疲れも忘れ、声援を送る。
ガクの視線の先には、グラウンドを走る女子の中でも、ひと際小さな女の子がいた。
「紡くんの妹、綾人目当てだと思ってたのに、意外とがんばってんじゃん」
感心した様子の二年生部員に、綾人はピクリと眉を動かす。
「ゆいちゃんが、俺目当てってどういうこと?」
「え?……ああ、綾人は朝練休んでた日だっけ?新学期はじまってすぐの頃かな?朝練の時にあの子が綾人に会いにきて、大和がキレたんだよ」
「しかも、逆ギレした妹ちゃんが、大和のこと堅物ゴリラ呼ばわりしてさ。まあ。男目当てのバカとか言った大和も悪いけど」
「くくっ。妹ちゃん、マジで最高だよな。あの大和に即言い返す肝の座り方、かなり好きだわ」
「これで、綾人目当てじゃなかったらな~」
おもしろがった部員たちは、口々に言い合う。
片手で両目を覆った綾人は、深いため息をつき、
「それ勘違いだよ。ゆいちゃんは、紡くんから預かった本を俺に渡しにきただけ」
「マジで⁉︎」
「あちゃー……。悪いことしたな」
「終わったら、謝りに行こうぜ」
気まずいムードが流れる中、一人の部員が言う。
「……ってか、妹ちゃん顔色悪くね?」
「マジで?この距離で、よく見えるな」
「間違いねえ、俺、視力二・〇だし」
先輩たちのやり取りで、ガクの顔色は見る見るうちに悪くなっていく。
ガクがフェンスを握る手には、無意識に力がこもっていた。
「もしかして、体調悪いとか?」
「だとしたら、最後まで走れないかもな」
先輩たちの言葉に、ガクはますます強く金網を握りしめ、
「がんばれよ、ゆい……」
祈るような気持ちで、つぶやいた。