春ヶ丘中学校男子バスケ部〜マネージャーになんてなりません⁉︎〜

【15】
「クソッ。試合、負けてんな」
体育館に戻ると、第四Qがはじまったところだった。
「実力は五分五分だけど、決定打に欠けるうちが競り負けてるって感じだ」
途中まで試合を見ていた田代くんが教えてくれる。
そういうことなら、
「黒川!シューズあった!」
体育館の入り口から、めいっぱい大きな声でさけぶ。
手をふる私に気付いた黒川の目が、こぼれんばかりに見開かれる。
その奥のベンチで、
「なっ⁉︎なんで見つかって⁉︎」
栗林が、動揺したように立ち上がる。
それを見た明野くんは、
「シューズって……なんのことだ?まさか、君のしわざか⁉︎」
青ざめる栗林に、すぐに事情を理解したらしい。
ベンチの前にいる栗林に詰め寄る。
「いや、おれはただ……」
冷や汗を流し、たじろぐ栗林に、
「僕は正々堂々、黒川くんと勝負したいんだ!その勝負に、ひきような手段で水を差すなんて……!」
「ひっ!」
おびえる栗林の胸ぐらをつかむ明野くんに、
「おい、落ち着けお前ら!」
待ったをかけたのは、朱鷺坂学園のキャプテンだ。
タイマーは止まり、部長同士の話し合いがはじまる。
そして、協議のすえ。もどって来た部長は、
「話しはあとだ。決着を付けよう」


黒川が、コートに立ってる……。
足元には、いつもの黒いシューズがある。
それだけのことなのに、不思議な高揚感で胸が震えた。
試合が再開する直前、黒川が一度だけ、ベンチのほうを見た。
はっきりと目が合うのが分かって、私はうなずく。
黒川がすごいってことは、チームのみんなが分かってるから。ぶちかまして、黒川!
応援の気持ちが通じたのか、黒川はうなずき返し、すっと集中した目になった。
そこからは、黒川の独壇場だった。
「おい、十三番押さえろ!」
相手チームの監督から、指示が飛ぶ。
だけど、水の中を悠々と泳ぐ魚みたいな黒川をだれも止めることができない。
放たれたシュートは、正確な軌道を描いてリングに吸い込まれる。
黒川の口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
その表情から、黒川が思いっきりバスケを楽しんでいることが分かる。
「クソッ……!やっぱ、すげえなあいつ!」
田代くんは、悔しそうにしているものの。その目にはヒーローに憧れる子どもみたいな、無邪気な光が浮かんでいた。
黒川のプレーにだれもが魅せられて、目を離せないでいたんだけど、
「君の好きにばかりは、させないよ」
ボールを受け取った明野くんが、即座に三人を抜き去る。
明野くんって、まじめないい子ってイメージだったけど。あの爽やかさで、超攻撃型のプレーヤーなんだ……!
明野くんは、背が高い先輩たちにも物おじせず、リング下に切り込む。明野くんがシュートを決めると、ベンチと観客席から歓声が上がった。
「さあ、決着を着けようじゃないか」
明野くんは、黒川を挑発するように不敵に笑う。
スコアは、六十六対七十一。
黒川の巻き返しもあって、点差は五点に縮まっている。だけど、相手も負けていない。
どちらも攻撃型のチームだからか、得点の取り合いになっている。
ギリギリの攻防が続く中、点差は二点。
試合終了三秒前、ボールは黒川の手に渡った。
「行っけぇー!黒川ァー!」
気づけば、私たち一年生は、声をそろえて叫んでいた。
黒川が、相手選手を抜き去り、半円状のスリーポイントラインの前までくる。
黒川がもっとも得意としているのは、スリーポイントシュート。ここで決めれば、一発逆転だ。
相手もそれを分かっていて、二人がかりで黒川をおさえにくる。
「黒川!」
響いた声は、部長の大和先輩のものだ。
目の前の敵をかわした先輩は、フリー。絶好のチャンスだ。
それに気付いて、明野くんが先輩をおさえようとする。だけど、
「黒川だ!あいつはこの場面で、絶対にパスしない!」
のどが千切れるような声で叫んだのは、栗林だ。
びくっと、ゆれた田代くんの肩が私の肩にぶつかる。
私は、コート上の黒川に向かって祈る。
お願い、黒川……!