▽
「どうしよう、ここにもない……!」
ひざに手をついて、肩で息をする。
だけどすぐに、きびすを返して走り出す。
額を流れる汗もそのままに、思い付くかぎりの場所をしらみつぶしに調べていく。
ガクの話では、すでに第三Qがはじまっている。
栗林がかくしそうなゴミ箱の中も、トイレも、側溝の中だって探した。
だけど、どこを探しても、黒川のシューズは見つけられなかった。
これだけ探しても、ないってことは……。
栗林が今も持ってるってことは、ないと思う。
証拠になるものを、手元に残しているわけないし。
まさか、もう校内にはないんじゃ……。
これだけ見つからないと、不安になるけど、
「……っ、ガク!」
渡りろう下の真ん中で、ばったり合流したガクは、
「悪い、ゆい!東棟にはなかった!」
私と同じように汗を流し、悔しげな顔をするガクに、
「……っ。ありがとう、ガク」
自然と、本音がもれる。
「ガクが一緒に悩んでくれるから、こんな状況でも、心が折れずに済んでる」
同じくらい必死になってくれている仲間がいると、心強い。そんな気持ちを込めて笑うと、
「ゆい……」
ふいをつかれたようなガクの顔が、苦しげにゆがむ。
「ごめん、おれ……にぶいから。あの頃、ゆいとほかのやつらのこと……ぜんぜん気付いてなかった」
それは、とつぜんの謝罪だった。
私が言葉をつまらせている間に、
「そのこと……ずっと後悔してた。あの頃、おれがゆいの味方になってやれてたらって。そうしてたら……ゆいは今も、大好きなバスケを続けられてたんじゃないかって」
いつも明るいガクの顔が、悲痛にゆがんでいた。
その表情が、言葉が、思いがけず私の胸を刺す。
そっか……。ガクは、そのことをずっと……気にやんでくれてたんだ。
ガクが、やけに私のことを気にしてたのは、そのせいだったんだね。
「だからこそ、今回は……黒川のことは、見逃したくねえ!だれかが望まない形で、チームを去るところを見送るのは、もういやなんだ!」
「……っ。私も……私だって、いやだ!」
黒川にいやがらせをしてたやつらのせいで、黒川が今のチームのみんなを信じられないままなんて、いやだ!
あんな性格ねじ曲がったやつらなんかに、絶対に負けない!
「けど、シューズが見つからねえと、黒川を試合に出してやることも……」
ガクの言う通り、試合終了まであと一時間もない。
気持ちだけではどうにもならない現実が、すぐそこまで迫っていた。
弱気になるガクにつられて、不安が押し寄せる。
やっぱり、むりだったのかな……。
たった二人で、この広い校内から黒川のシューズを見つけ出すなんて……。
あきらめの気持ちに飲まれそうになった時、
「人手が足りないなら、そう言えよ!」
うつむく私たちを、叱咾する声がした。
顔を上げればそこには、
「田代、くん……?」
それだけじゃない。ほかの一年生も集まってる。
田代くんは、ふんっと鼻を鳴らして、
「おれたちの手くらい、いくらでも貸してやる!」
それに続いて、ほかのみんなも口々に威勢のいい声を上げる。
「黒川のリベンジマッチなんだろ?だったら、おれたちで実現させるぞ!」
「……っ。いいの?黒川とケンカしてたのに」
「……うっ。たしかに、黒川にはムカついてた」
そっぽを向き、ぼそぼそと気まずそうに言った田代くんは、
「だけど!あんなふうに自分のチームメイトバカにされて、お前らもこんなに必死になってて!黒川も……試合に出たいって顔してて!そんなの、黙って見てられるわけないだろうが!」
田代くんの声に続いて、「そうだそうだ!」「男がすたるだろ!」とヤジがとんでくる。
「みんな……っ」
みんなの気持ちに背中を押された私は、
「私だって……負けてられない!」
ばちんと、ほほをたたいて気合を入れ直す。
そして、
「行こう、ガク!私たちで黒川を助けよう!」
ひざに手をついたままのガクに手を差し出す。
きらんと、目を輝かせたガクは、
「そういう熱い展開、大好きだ!」
……黒川を、試合に出してあげたい。
私たちは、その一心で黒川のシューズを探し回る。
色は、黒。シューズの形も、ラインの位置も、ロゴのマークも、覚えてる。
練習のあと、シューズが痛まないように黒川が大切に手入れしてたの、知ってるから。
それぞれがバラバラに散って、数十分経った頃。
それは、とつぜん訪れた。
「……っ!もしかして、あれ……!」
偶然、顔を上げた時に目に入った。
「あんな高い所に……!」
靴ひもで繋がれた一組のシューズは、校舎裏に生えた木の、葉の中に理もれていた。
木を揺すっても、Y字になった枝の間に引っかかってて、落ちてきそうにない。
シューズは、近くの校舎の三階から投げたんだろう。あんなところにかくすなんて、どこまで卑怯なの……!
木を登るには、厳しい高さ。かと言って、建物の窓から手を伸ばそうにも、届くかどうかあやしい位置だ。
精いっぱい身を乗り出しても、ギリギリ……。
だけど、選手のみんなを危ない目には、合わせられない。
「どうしよう、ここにもない……!」
ひざに手をついて、肩で息をする。
だけどすぐに、きびすを返して走り出す。
額を流れる汗もそのままに、思い付くかぎりの場所をしらみつぶしに調べていく。
ガクの話では、すでに第三Qがはじまっている。
栗林がかくしそうなゴミ箱の中も、トイレも、側溝の中だって探した。
だけど、どこを探しても、黒川のシューズは見つけられなかった。
これだけ探しても、ないってことは……。
栗林が今も持ってるってことは、ないと思う。
証拠になるものを、手元に残しているわけないし。
まさか、もう校内にはないんじゃ……。
これだけ見つからないと、不安になるけど、
「……っ、ガク!」
渡りろう下の真ん中で、ばったり合流したガクは、
「悪い、ゆい!東棟にはなかった!」
私と同じように汗を流し、悔しげな顔をするガクに、
「……っ。ありがとう、ガク」
自然と、本音がもれる。
「ガクが一緒に悩んでくれるから、こんな状況でも、心が折れずに済んでる」
同じくらい必死になってくれている仲間がいると、心強い。そんな気持ちを込めて笑うと、
「ゆい……」
ふいをつかれたようなガクの顔が、苦しげにゆがむ。
「ごめん、おれ……にぶいから。あの頃、ゆいとほかのやつらのこと……ぜんぜん気付いてなかった」
それは、とつぜんの謝罪だった。
私が言葉をつまらせている間に、
「そのこと……ずっと後悔してた。あの頃、おれがゆいの味方になってやれてたらって。そうしてたら……ゆいは今も、大好きなバスケを続けられてたんじゃないかって」
いつも明るいガクの顔が、悲痛にゆがんでいた。
その表情が、言葉が、思いがけず私の胸を刺す。
そっか……。ガクは、そのことをずっと……気にやんでくれてたんだ。
ガクが、やけに私のことを気にしてたのは、そのせいだったんだね。
「だからこそ、今回は……黒川のことは、見逃したくねえ!だれかが望まない形で、チームを去るところを見送るのは、もういやなんだ!」
「……っ。私も……私だって、いやだ!」
黒川にいやがらせをしてたやつらのせいで、黒川が今のチームのみんなを信じられないままなんて、いやだ!
あんな性格ねじ曲がったやつらなんかに、絶対に負けない!
「けど、シューズが見つからねえと、黒川を試合に出してやることも……」
ガクの言う通り、試合終了まであと一時間もない。
気持ちだけではどうにもならない現実が、すぐそこまで迫っていた。
弱気になるガクにつられて、不安が押し寄せる。
やっぱり、むりだったのかな……。
たった二人で、この広い校内から黒川のシューズを見つけ出すなんて……。
あきらめの気持ちに飲まれそうになった時、
「人手が足りないなら、そう言えよ!」
うつむく私たちを、叱咾する声がした。
顔を上げればそこには、
「田代、くん……?」
それだけじゃない。ほかの一年生も集まってる。
田代くんは、ふんっと鼻を鳴らして、
「おれたちの手くらい、いくらでも貸してやる!」
それに続いて、ほかのみんなも口々に威勢のいい声を上げる。
「黒川のリベンジマッチなんだろ?だったら、おれたちで実現させるぞ!」
「……っ。いいの?黒川とケンカしてたのに」
「……うっ。たしかに、黒川にはムカついてた」
そっぽを向き、ぼそぼそと気まずそうに言った田代くんは、
「だけど!あんなふうに自分のチームメイトバカにされて、お前らもこんなに必死になってて!黒川も……試合に出たいって顔してて!そんなの、黙って見てられるわけないだろうが!」
田代くんの声に続いて、「そうだそうだ!」「男がすたるだろ!」とヤジがとんでくる。
「みんな……っ」
みんなの気持ちに背中を押された私は、
「私だって……負けてられない!」
ばちんと、ほほをたたいて気合を入れ直す。
そして、
「行こう、ガク!私たちで黒川を助けよう!」
ひざに手をついたままのガクに手を差し出す。
きらんと、目を輝かせたガクは、
「そういう熱い展開、大好きだ!」
……黒川を、試合に出してあげたい。
私たちは、その一心で黒川のシューズを探し回る。
色は、黒。シューズの形も、ラインの位置も、ロゴのマークも、覚えてる。
練習のあと、シューズが痛まないように黒川が大切に手入れしてたの、知ってるから。
それぞれがバラバラに散って、数十分経った頃。
それは、とつぜん訪れた。
「……っ!もしかして、あれ……!」
偶然、顔を上げた時に目に入った。
「あんな高い所に……!」
靴ひもで繋がれた一組のシューズは、校舎裏に生えた木の、葉の中に理もれていた。
木を揺すっても、Y字になった枝の間に引っかかってて、落ちてきそうにない。
シューズは、近くの校舎の三階から投げたんだろう。あんなところにかくすなんて、どこまで卑怯なの……!
木を登るには、厳しい高さ。かと言って、建物の窓から手を伸ばそうにも、届くかどうかあやしい位置だ。
精いっぱい身を乗り出しても、ギリギリ……。
だけど、選手のみんなを危ない目には、合わせられない。

