春ヶ丘中学校男子バスケ部〜マネージャーになんてなりません⁉︎〜


試合は進み、すでに第二Qがはじまっていた。
「黒川くん。君ほどの実力がありながら、今日は出場しないのかい?」
試合が再開する直前。相手チームの明野が、わざわざベンチにいる黒川の前まで来た。
黒川に起こった一連の出来事を、明野は知らないらしい。
「コートで待ってる」
明野は短く告げ、コートの中央に戻って行った。
その背中が、コート上でプレーする選手たちが、うらやましくてたまらない。
おれだって、本当は……!
最近、調子を崩していたものの、今日はかなり調子がよかった。
試合に出してもいいかもな、と部長たちが話していたのも聞こえていた。
全力でプレーできる環境があるのに、自分だけが蚊帳の外に置かれているなんて、耐えられない。
ボールの感触が残る指先が、脚が、全身がうずく。
今の場面、自分ならこうしたと、頭の中だけで考えるのはうんざりだ。
なんでおれが、こんな我慢を強いられないといけなんだ!
あいつらが、邪魔さえしなければ……!
黒川の視線の先には、元チームメイトの栗林の姿がある。
栗林は、黒川と目が合うと、口をぱくぱくと動かし、ざまあみろと嘲笑を浮かべる。
瞬間、激しい怒りに心を支配され、
「……ぶっとばす」
「おい、黒川⁉︎」
チームメイトの声も耳に届かず。
栗林を直接問いただそうと、立ち上がった時、
『私たちが、絶対に見つけるから!』
ハッと頭をよぎったのは、一人の少女の言葉だった。
まっすぐに自分を見つめる少女は、そう誓ってくれた。その瞳には、希望に満ちあふれた強い光りが宿っていた。
『待ってて、黒川!』
少女の言葉がよみがえり、我にかえる。
……そうだ。おれが今やるべきなのは、栗林を殴ることじゃない。
今も自分のために必死になってくれている二人が戻って来た時に、全力でプレーをすることだ。
少女のまなざしを、言葉を思い出すと、不思議と心が落ち着いた。
今はよけいなことを考えず、目の前の試合に集中しよう。
ベンチに腰を下ろし、前のめりになる。
いつしか、黒川の意識からは、目の前の試合以外のすべてが切り離されていた。