【14】
「よかった。みんな調子がいいみたいだね」
アップのあと、美桜先輩が言った。
部長の大和先輩は、相手チームのキャプテンや監督、顧問の先生たちと話している。ほかの選手たちは、試合開始までそれぞれ休けいしていた。
「そうですね。みんな慣れないコートだけど、その分テンションも上がってるっていうか」
いつもより天井が高い体育館は、ライトの光もあいまって明るく感じられる。
光沢がある床は、歩くたびに、きゅっきゅっといい音がした。
「黒川も、今日はシュートの決定率が戻ってきてるし。心なしか、表情も柔らかくなってたよね」
美桜先輩の言う通り、今日の黒川のシュートはキレキレだ。
アップがはじまってからは、田代くんともめることもなかったし。
「この感じだと、黒川も試合に出られるかもね」
「……っ!本当ですか、稲葉先輩⁉︎」
「うん。大和ともそう話してたしね」
稲葉先輩は、コートの中央にいる部長に視線を送る。部長が言ってたってことは、
「黒川……。本当に、試合に出られるんだ……!」
ぐっと、うれしさを噛みしめていると、
「あっ、監督たち話が終わったみたい。ゆいちゃん、そろそろ時間だから、みんなを呼んできてくれる?」
笑顔の美桜先輩に送り出され、
「はい!」
私の足取りは、スキップせんばかりに軽い。
よかったね、黒川……!
練習試合とはいえ、一年生なのに出られるなんてすごいよ!
それだけ黒川が、みんなに期待されてるってことだよね!
自分のことみたいにうれしくなって、はずむ足取りで歩いていると、
「おい、どういうことだよ!」
体育館の外のろう下に、人だかりができていた。
「だれかが、間違えて履いて行ったとか?」
「だったら、ほかのシューズが残ってないとおかしいだろ」
男子トイレの前に集まっているのは、うちの部の一年生だ。
その中で、黒川だけがシューズを履いていなくて……。
「ガク!」
「あっ、ゆい!やべえんだよ。トイレから出たら、黒川のバッシュがなくなってて……」
ガクの話で、予感が確信をおびる。
ほかの人なら、たまたまだとか、運が悪かったとかで片付けられるかもしれない。だけどその出来事は、黒川にとって大きな意味を持っていて、
「黒川……」
まだ、頭の整理がつかなくて。迷いながら声をかけようとした時、
「おいおい、どうしたよ黒川。何か問題でもあったのか?」
仲間を引き連れ、にやついた顔で話しかけてきたのは、
「栗林……!お前らが、やったのか!」
黒川は、怒りのままに栗林につかみかかる。
えりをつかまれた栗林は、
「おいおい、言いがかりはよせよ。……それとも、またおれのことを殴るつもりか?他校との練習試合で暴力事件なんて、まずいんじゃねえの?」
「……っ」
ひるむ黒川に、
「そうそう。もう小学生じゃねえんだ。今度手を出せば、お前だけじゃなくて、お前が所属してるバスケ部ごと、大会出場停止になるぞ」
栗林は続けて、
「それとも、おれたちがやったって証拠でもあるのか?」
黒川を見下すような、下卑た笑みを浮かべる。
その後ろで、栗林の仲間たちもゆかいそうに笑っていた。
私はたまらず、
「だけど……!あんたたちが昔、黒川のくつをかくしたり、いやがらせしてたのは本当で、」
苦しまぎれに言えば、
「“黒川が"、そう言ってるだけだろ。ほかに同じことを証言するやつなんて、どこにもいない。つまり、おれたちは、“なにもしてない”ってことだ」
「……っ!」
よくも、ぬけぬけと……!
そう言って、つかみかかりたいけど。栗林の言う通り、ここで問題を起こすわけにはいかない。
黒川の肩も震えていて、必死に怒りにたえているのがわかった。反論しようにも、証拠がないし……。
このムカつくにやけ笑いから、こいつがやったってことは確実なのに!
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい……!
今にも爆発しそうな感情を、奥歯を噛みしめてこらえる。
それは、黒川も……ううん、黒川のほうが、私よりずっとずっと悔しいはずだ。
なにも言い返せないまま、爆ぜる炎のような目で栗林を見ていると、
「落ち着け、二人とも」
ぽんと、私と黒川の頭に手を置いたのは、
「よかった。みんな調子がいいみたいだね」
アップのあと、美桜先輩が言った。
部長の大和先輩は、相手チームのキャプテンや監督、顧問の先生たちと話している。ほかの選手たちは、試合開始までそれぞれ休けいしていた。
「そうですね。みんな慣れないコートだけど、その分テンションも上がってるっていうか」
いつもより天井が高い体育館は、ライトの光もあいまって明るく感じられる。
光沢がある床は、歩くたびに、きゅっきゅっといい音がした。
「黒川も、今日はシュートの決定率が戻ってきてるし。心なしか、表情も柔らかくなってたよね」
美桜先輩の言う通り、今日の黒川のシュートはキレキレだ。
アップがはじまってからは、田代くんともめることもなかったし。
「この感じだと、黒川も試合に出られるかもね」
「……っ!本当ですか、稲葉先輩⁉︎」
「うん。大和ともそう話してたしね」
稲葉先輩は、コートの中央にいる部長に視線を送る。部長が言ってたってことは、
「黒川……。本当に、試合に出られるんだ……!」
ぐっと、うれしさを噛みしめていると、
「あっ、監督たち話が終わったみたい。ゆいちゃん、そろそろ時間だから、みんなを呼んできてくれる?」
笑顔の美桜先輩に送り出され、
「はい!」
私の足取りは、スキップせんばかりに軽い。
よかったね、黒川……!
練習試合とはいえ、一年生なのに出られるなんてすごいよ!
それだけ黒川が、みんなに期待されてるってことだよね!
自分のことみたいにうれしくなって、はずむ足取りで歩いていると、
「おい、どういうことだよ!」
体育館の外のろう下に、人だかりができていた。
「だれかが、間違えて履いて行ったとか?」
「だったら、ほかのシューズが残ってないとおかしいだろ」
男子トイレの前に集まっているのは、うちの部の一年生だ。
その中で、黒川だけがシューズを履いていなくて……。
「ガク!」
「あっ、ゆい!やべえんだよ。トイレから出たら、黒川のバッシュがなくなってて……」
ガクの話で、予感が確信をおびる。
ほかの人なら、たまたまだとか、運が悪かったとかで片付けられるかもしれない。だけどその出来事は、黒川にとって大きな意味を持っていて、
「黒川……」
まだ、頭の整理がつかなくて。迷いながら声をかけようとした時、
「おいおい、どうしたよ黒川。何か問題でもあったのか?」
仲間を引き連れ、にやついた顔で話しかけてきたのは、
「栗林……!お前らが、やったのか!」
黒川は、怒りのままに栗林につかみかかる。
えりをつかまれた栗林は、
「おいおい、言いがかりはよせよ。……それとも、またおれのことを殴るつもりか?他校との練習試合で暴力事件なんて、まずいんじゃねえの?」
「……っ」
ひるむ黒川に、
「そうそう。もう小学生じゃねえんだ。今度手を出せば、お前だけじゃなくて、お前が所属してるバスケ部ごと、大会出場停止になるぞ」
栗林は続けて、
「それとも、おれたちがやったって証拠でもあるのか?」
黒川を見下すような、下卑た笑みを浮かべる。
その後ろで、栗林の仲間たちもゆかいそうに笑っていた。
私はたまらず、
「だけど……!あんたたちが昔、黒川のくつをかくしたり、いやがらせしてたのは本当で、」
苦しまぎれに言えば、
「“黒川が"、そう言ってるだけだろ。ほかに同じことを証言するやつなんて、どこにもいない。つまり、おれたちは、“なにもしてない”ってことだ」
「……っ!」
よくも、ぬけぬけと……!
そう言って、つかみかかりたいけど。栗林の言う通り、ここで問題を起こすわけにはいかない。
黒川の肩も震えていて、必死に怒りにたえているのがわかった。反論しようにも、証拠がないし……。
このムカつくにやけ笑いから、こいつがやったってことは確実なのに!
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい……!
今にも爆発しそうな感情を、奥歯を噛みしめてこらえる。
それは、黒川も……ううん、黒川のほうが、私よりずっとずっと悔しいはずだ。
なにも言い返せないまま、爆ぜる炎のような目で栗林を見ていると、
「落ち着け、二人とも」
ぽんと、私と黒川の頭に手を置いたのは、

