▽
星がまたたく公園。
栗林たちと別れたあと、ブランコに座ったところで、
「おれに、なにか言うことがあるよな?」
「スミマセンデンタ……」
立ったままの黒川に見下ろされて、私はますます小さくなる。
「ごめん、黒川……。黒川のことまで、勝手な勝負に巻き込んじゃって」
仮入部の私はともかく、負けたら黒川もバスケ部をやめないといけないなんて……。
軽はずみに勝負を受けたことが、今さらながら悔やまれる。ブランコの鎖をにぎった私は、しゅんとうつむいて、反省モード。だけど、
「私……黒川に、春中のみんなに勝ってほしい!」
栗林との勝負を受けたあと、私は一つ条件を付け足した。
『そのかわり、あんたたちが負けたら、黒川に謝ってもらうから!』
その一点だけは、後悔してない。
だって、黒川をいじめてた人が笑ってて、おとしいれられた黒川が今も笑えないままなんて、絶対におかしいから。
まっすぐな目を向ける私に、
「……お前って、変なやつだな」
黒川はあきれたみたいに息をついて、となりのブランコに腰かける。
「あいつら……栗林たちとは、ミニバスの先輩たちが卒業して、六年生に上がったとたんに、上手くいかなくなった。……ずっとめざわりだったって言われたから、それよりも前から、おれに対して不満があったんだと思う」
大会の時に見た黒川は、少しナマイキだけど、先輩たちにもバスケの実力を認められて、かわいがられているように見えた。
そんな黒川に対して、栗林たちは嫉妬していたのかもしれない。
「いやがらせは、六年の春ごろからはじまった。だけどおれは、バスケができればそれでよかった。あいつらも、練習とか、試合中はなにもしてこなかったし。それ以外なら、何されてもどうでもいいって、無視してたんだけど、」
そんな黒川の態度が、よけいに栗林たちの反感を買ってしまったのかもしれない。
「おれ……親が離婚してて。仕事でいそがしい親父に代わって、じいちゃんがずっとめんどう見ててくれてさ」
おじいさんの話をする黒川の目は、ほんの少し和らいで見えた。だけど、すぐに硬い表情に戻り、
「そのじいちゃんが、六年の秋に入院した。おれも着替えを届けに、毎日のように病室に通ってた。その時、誕生日には渡せそうにないからって、じいちゃんが用意してたバッシュをくれたんだ。だけど……」
黒川の横顔が、悲しみにかげる。
「チームメイトの親が、その病院で働いてたらしくて。おれのバッシュの出どころを知った栗林に、目え付けられて……。日が暮れるまで探し回って、ゴミ箱の中からようやく見つけたシューズは、汚れて、ズタズタになってて。その時に、栗林が言ったんだ」
『お前、じいちゃんと二人で暮らしてるんだってな?お前のシューズ、加齢臭が染みついてて、臭えんだよ。代わりにゴミに出しといてやったから、感謝しろよ』
頭の中で再生される栗林の声に、激しい怒りがこみ上げる。
「あいつら……鼻をつまんで、笑いながらそう言ったんだ。しかも、笑いすぎて涙まで出てて……。それがおれは、許せなくて……」
黒川の声が、固く握りしめられた拳が、震えている。
「暴力事件を起こしたおれは、朱鷺坂への推薦を取り消された。それで、同じチームだったあいつらだけが、朱鷺坂に行くことになった。我慢すればいいのに、まんまと、あいつらの挑発にのって。……バカだよな、おれ。先生や親父にも、お前の心が弱いからだって言われた」
自嘲気味に笑う黒川に、抑えていた感情が一気に膨れ上がる。
「バカなんかじゃ、ないから!」
立ち上がると同時に、ブランコの鎖が鳴る。
「大切な人をバカにされて、その人からの贈り物を……気持ちを踏みにじられたりしたら、怒るのは当たり前だよ!」
肩をつかまれた黒川は、ぽかんとした顔で私を見上げる。
「それは、黒川の心の弱さなんかじゃなくて、優しさだよ!」
感情がたかぶって、ぐっと胸がつまる。
あふれる涙がこぼれないように、必死にがまんしていると、
「なんで、お前が泣きそうになってるんだよ」
黒川は、ちょっと困ったみたいに笑う。その笑顔は、私には優しく見えて……。
やっぱり黒川は、クズでも、クソ野郎でもないよ。
栗林は、『お前の味方なんて、だれもいない』とか、『お前はこの先、一生ひとりぼっちだ』とか、黒川に言ってたけど……。
制服のそでで、ぐしっと無理やり涙をぬぐった私は、
「黒川を一人ぼっちになんて、私がさせない!ずっとずっと、私がおばあちゃんになっても、黒川があきるくらい一緒にいてやるから!……だから、バスケやろう!」
その声は、夜空の星に届くくらい、大きな声だった。
「……声デカ。近所迷惑だろ」
「うわっ!ご、ごめん気合い入って!」
あわてる私に、黒川はふっと笑みをこぼして、立ち上がる。
スポーツバッグを肩にかけた黒川は、一歩先に進み、
「明日の練習試合、あいつらには負けない」
「……っ!うん!」
ふり返って笑う黒川に、私は走って追いつく。
街灯の下、同じほうを向いた影に、うれしくなる。
となり並んで歩いても、もう息苦しくない。
黒川の横顔を見上げた私は、満面の笑みで、
「明日は、絶対に勝とう!」
星がまたたく公園。
栗林たちと別れたあと、ブランコに座ったところで、
「おれに、なにか言うことがあるよな?」
「スミマセンデンタ……」
立ったままの黒川に見下ろされて、私はますます小さくなる。
「ごめん、黒川……。黒川のことまで、勝手な勝負に巻き込んじゃって」
仮入部の私はともかく、負けたら黒川もバスケ部をやめないといけないなんて……。
軽はずみに勝負を受けたことが、今さらながら悔やまれる。ブランコの鎖をにぎった私は、しゅんとうつむいて、反省モード。だけど、
「私……黒川に、春中のみんなに勝ってほしい!」
栗林との勝負を受けたあと、私は一つ条件を付け足した。
『そのかわり、あんたたちが負けたら、黒川に謝ってもらうから!』
その一点だけは、後悔してない。
だって、黒川をいじめてた人が笑ってて、おとしいれられた黒川が今も笑えないままなんて、絶対におかしいから。
まっすぐな目を向ける私に、
「……お前って、変なやつだな」
黒川はあきれたみたいに息をついて、となりのブランコに腰かける。
「あいつら……栗林たちとは、ミニバスの先輩たちが卒業して、六年生に上がったとたんに、上手くいかなくなった。……ずっとめざわりだったって言われたから、それよりも前から、おれに対して不満があったんだと思う」
大会の時に見た黒川は、少しナマイキだけど、先輩たちにもバスケの実力を認められて、かわいがられているように見えた。
そんな黒川に対して、栗林たちは嫉妬していたのかもしれない。
「いやがらせは、六年の春ごろからはじまった。だけどおれは、バスケができればそれでよかった。あいつらも、練習とか、試合中はなにもしてこなかったし。それ以外なら、何されてもどうでもいいって、無視してたんだけど、」
そんな黒川の態度が、よけいに栗林たちの反感を買ってしまったのかもしれない。
「おれ……親が離婚してて。仕事でいそがしい親父に代わって、じいちゃんがずっとめんどう見ててくれてさ」
おじいさんの話をする黒川の目は、ほんの少し和らいで見えた。だけど、すぐに硬い表情に戻り、
「そのじいちゃんが、六年の秋に入院した。おれも着替えを届けに、毎日のように病室に通ってた。その時、誕生日には渡せそうにないからって、じいちゃんが用意してたバッシュをくれたんだ。だけど……」
黒川の横顔が、悲しみにかげる。
「チームメイトの親が、その病院で働いてたらしくて。おれのバッシュの出どころを知った栗林に、目え付けられて……。日が暮れるまで探し回って、ゴミ箱の中からようやく見つけたシューズは、汚れて、ズタズタになってて。その時に、栗林が言ったんだ」
『お前、じいちゃんと二人で暮らしてるんだってな?お前のシューズ、加齢臭が染みついてて、臭えんだよ。代わりにゴミに出しといてやったから、感謝しろよ』
頭の中で再生される栗林の声に、激しい怒りがこみ上げる。
「あいつら……鼻をつまんで、笑いながらそう言ったんだ。しかも、笑いすぎて涙まで出てて……。それがおれは、許せなくて……」
黒川の声が、固く握りしめられた拳が、震えている。
「暴力事件を起こしたおれは、朱鷺坂への推薦を取り消された。それで、同じチームだったあいつらだけが、朱鷺坂に行くことになった。我慢すればいいのに、まんまと、あいつらの挑発にのって。……バカだよな、おれ。先生や親父にも、お前の心が弱いからだって言われた」
自嘲気味に笑う黒川に、抑えていた感情が一気に膨れ上がる。
「バカなんかじゃ、ないから!」
立ち上がると同時に、ブランコの鎖が鳴る。
「大切な人をバカにされて、その人からの贈り物を……気持ちを踏みにじられたりしたら、怒るのは当たり前だよ!」
肩をつかまれた黒川は、ぽかんとした顔で私を見上げる。
「それは、黒川の心の弱さなんかじゃなくて、優しさだよ!」
感情がたかぶって、ぐっと胸がつまる。
あふれる涙がこぼれないように、必死にがまんしていると、
「なんで、お前が泣きそうになってるんだよ」
黒川は、ちょっと困ったみたいに笑う。その笑顔は、私には優しく見えて……。
やっぱり黒川は、クズでも、クソ野郎でもないよ。
栗林は、『お前の味方なんて、だれもいない』とか、『お前はこの先、一生ひとりぼっちだ』とか、黒川に言ってたけど……。
制服のそでで、ぐしっと無理やり涙をぬぐった私は、
「黒川を一人ぼっちになんて、私がさせない!ずっとずっと、私がおばあちゃんになっても、黒川があきるくらい一緒にいてやるから!……だから、バスケやろう!」
その声は、夜空の星に届くくらい、大きな声だった。
「……声デカ。近所迷惑だろ」
「うわっ!ご、ごめん気合い入って!」
あわてる私に、黒川はふっと笑みをこぼして、立ち上がる。
スポーツバッグを肩にかけた黒川は、一歩先に進み、
「明日の練習試合、あいつらには負けない」
「……っ!うん!」
ふり返って笑う黒川に、私は走って追いつく。
街灯の下、同じほうを向いた影に、うれしくなる。
となり並んで歩いても、もう息苦しくない。
黒川の横顔を見上げた私は、満面の笑みで、
「明日は、絶対に勝とう!」

