【12】
「久しぶりだな、黒川」
口の端をつりあげて笑うのは、さっき私とぶつかった男の子。三白眼で、中途半端に伸びた毛先は、くりんくりんしている。
くりりんのほかの仲間も、にやにやと悪だくみするような顔をしていた。この人たちが現れたとたん、空気がじめっとした気がする。
「人に“あんなこと”しといて、女子と下校なんていい身分だな?」
くりりんは、わざとらしく自分の左ほほにペチペチと手を当てる。
「邪魔だ、どけ」
瞳に黒い炎を宿した黒川は、くりりんの横を通りすぎようとする。
相手は、黒川の迫力に気圧されつつ、
「おいおい、つれねえな?おれたち、元チームメイトだろ?」
思わぬ関係性に、疑問符がもれる。
くりりんは、私の反応を見逃さず、
「あんたもどうせ、こいつの顔につられただけなんだろ?言っとくが、こいつはサイテー最悪のクソ野郎だ。なんせ、ケモノみたいにおれにつかみかかって、暴力をふるってきたんだからな」
せせら笑うくりりんは、私の顔がショックに染まるのを、期待しているみたいだった。だけど私は、その事件のことをすでに知っていた。
黒川の表情はかたく、握りしめられた挙には、力がこもっている。怒り一色に染まっていた目に、わずかに哀しみの色がのぞいた。
そんな黒川を見て、元チームメイトだという彼らは、笑みを深める。
「イケメンだからってちやほやされてるだろうが、そんなの入学したての今だけだ。お前の本性を知れば、みんなお前から離れて行く」
くりりんは、黒川の顔をのぞきこみ、
「じいさんから、もらったくつ、まだ大事に持ってんのか?」
「……っ」
黒川は、はじかれたように顔を上げる。
「おっと、今度は手ぇ出すなよ?そのせいで、朱鷺坂への推薦も取り消されたんだろ?ひどいよなぁ。入院中のじいさんからのプレゼントにラクガキされて、ずたずたに切り裂かれて、あげくのはてにゴミ箱に捨てられるなんて」
至近距離であおってくるくりりんに、黒川はブチ切れる寸前だ。
「お前の味方なんて、だれもいない。お前はこの先、一生ひとりぼっちだ」
その言葉は、黒川の心を深くえぐり、傷付けるためだけに放たれたものだった。
歯を食いしばり、じっと耐える黒川と。黒川へのいやがらせに、やけにくわしいチームメイトたち。
もしかして、黒川は……。
黒川が、かたくなにチームメイトを拒絶していた理由が、ようやく分かった気がした。
「あんたも、黒川の彼女なんてやめたほうがいい。こいつは、顔がいいだけのクズだからな」
「言っとくけど」
その声は、自分で思っている以上に低く響いた。
「彼女じゃなくて、バスケ部のマネージャーだから」
座った目で言い返す私に、相手はぎょっと目を見開く。視界のはしで、黒川も目を丸くしているのが分かった。
私みたいな小さな女の子が、自分よりも何センチも背が高い男の子たちに、立ち向かっていくとは思わなかったみたいだ。
だけど、人が私に抱くイメージなんて、知るもんか。
黒川を背に、くりりんの正面に立った私は、
「サイテー最悪のクソ野郎は、そっちでしょ?自分がしたいじめを自慢話みたいに話すなんて、クッソダサいから!」
「なっ……⁉︎しょ、証拠はどこにあるんだよ!おれたちがいじめてたなんて、」
「その動揺っぷりが、十分な証拠でしょうが。というか、黒川をあおって、自分のこと殴らせようとしてるのも見え見えだから。手口がワンパターンすぎ」
「ぐっ……」
相手は図星をつかれたのか、悔しそうにだまりこむ。
「だ、だけど、黒川がおれのことを殴ったのは事実で、」
言い訳がましく続けるくりりんに、まだ言うかとあきれて、
「むかしのことをねちねちねちねち、しつこすぎ。そういうヘドロ根性が、モテない原因なんじゃない?」
「だ、だれがヘドロだぁ!」
"モテない”ってところが、クリティカルヒットしたらしい。
くりりんは、つばを飛ばして声をあららげる。
「お、おい、栗林!」
「こんなチビ女に負けるなよ!」
仲間のエールを受け、落ち着きを取り戻したくりりんこと栗林は、
「に、にしても、ざまあねえな、黒川!こんなチビ女に守られて、恥ずかしくないのかよ?」
「あんたの生き様のほうが、よっぼど恥ずかしいわ」
「て、てんめぇ……!」
「落ち着け、栗林!」
また暴れ出しそうになる栗林を、仲間が必死になって止める。
せえぜえと肩で息をついた栗林は、
「お前ら……春ヶ丘中のバスケ部ってことは、明日の練習試合でおれらと当たるだろ?」
栗林の言葉に、きょとんとする。
言われてみれば、学校指定らしきスポーツバッグには、ローマ字で学校名が書かれている。
「う、うえええ⁉︎あなたたち、朱鷺坂学園のバスケ部なの⁉︎」
朱鷺坂って、かなりの強豪校なのに!こんな根性ねじ曲がった人たちもいるんだ……。
心の底から驚いていると、栗林は私がビビったと思ったらしい。
「そうだ。お前らなんて、明日の練習試合で蹴散らしてやるよ。桜ヶ丘なんて、私立のうちに比べれば、ザコばっかだろ」
仲間をコケにされて、メラッと闘争心が燃える。
そこまで言われて、だまってられるか!
「言っとくけど、勝つのはうちの学校だから!私が大好きなチームのみんなは、あんたたちなんかに絶対に負けない!」
「言ったな?だったら、賭けをしようぜ?」
にやりと笑った栗林は、
「明日の練習試合でお前らが負けたら、黒川と、ついでにお前もバスケ部をやめろ!」
その言葉に、ぎくりとする。
だって、黒川も私も、せっかく入った部活をやめないといけないだなんて……。
「まさか、あれだけ大口たたいといて自信がないなんて言わないよな?それとも、やっぱ、桜ヶ丘はザコばっかなのか?」
そんなふうにあおられて、カチンとくる。
「上等だわ!あんたたちのことなんて、けちょんけちょんにしてやる!」
「なら、勝負成立だな。ザコどもとの練習試合なんてつまらないと思ってたけど、ちょっとは楽しめそうだぜ」
栗林は、獲物に噛みつくのが待ちきれないみたいに、舌なめずりした。
「久しぶりだな、黒川」
口の端をつりあげて笑うのは、さっき私とぶつかった男の子。三白眼で、中途半端に伸びた毛先は、くりんくりんしている。
くりりんのほかの仲間も、にやにやと悪だくみするような顔をしていた。この人たちが現れたとたん、空気がじめっとした気がする。
「人に“あんなこと”しといて、女子と下校なんていい身分だな?」
くりりんは、わざとらしく自分の左ほほにペチペチと手を当てる。
「邪魔だ、どけ」
瞳に黒い炎を宿した黒川は、くりりんの横を通りすぎようとする。
相手は、黒川の迫力に気圧されつつ、
「おいおい、つれねえな?おれたち、元チームメイトだろ?」
思わぬ関係性に、疑問符がもれる。
くりりんは、私の反応を見逃さず、
「あんたもどうせ、こいつの顔につられただけなんだろ?言っとくが、こいつはサイテー最悪のクソ野郎だ。なんせ、ケモノみたいにおれにつかみかかって、暴力をふるってきたんだからな」
せせら笑うくりりんは、私の顔がショックに染まるのを、期待しているみたいだった。だけど私は、その事件のことをすでに知っていた。
黒川の表情はかたく、握りしめられた挙には、力がこもっている。怒り一色に染まっていた目に、わずかに哀しみの色がのぞいた。
そんな黒川を見て、元チームメイトだという彼らは、笑みを深める。
「イケメンだからってちやほやされてるだろうが、そんなの入学したての今だけだ。お前の本性を知れば、みんなお前から離れて行く」
くりりんは、黒川の顔をのぞきこみ、
「じいさんから、もらったくつ、まだ大事に持ってんのか?」
「……っ」
黒川は、はじかれたように顔を上げる。
「おっと、今度は手ぇ出すなよ?そのせいで、朱鷺坂への推薦も取り消されたんだろ?ひどいよなぁ。入院中のじいさんからのプレゼントにラクガキされて、ずたずたに切り裂かれて、あげくのはてにゴミ箱に捨てられるなんて」
至近距離であおってくるくりりんに、黒川はブチ切れる寸前だ。
「お前の味方なんて、だれもいない。お前はこの先、一生ひとりぼっちだ」
その言葉は、黒川の心を深くえぐり、傷付けるためだけに放たれたものだった。
歯を食いしばり、じっと耐える黒川と。黒川へのいやがらせに、やけにくわしいチームメイトたち。
もしかして、黒川は……。
黒川が、かたくなにチームメイトを拒絶していた理由が、ようやく分かった気がした。
「あんたも、黒川の彼女なんてやめたほうがいい。こいつは、顔がいいだけのクズだからな」
「言っとくけど」
その声は、自分で思っている以上に低く響いた。
「彼女じゃなくて、バスケ部のマネージャーだから」
座った目で言い返す私に、相手はぎょっと目を見開く。視界のはしで、黒川も目を丸くしているのが分かった。
私みたいな小さな女の子が、自分よりも何センチも背が高い男の子たちに、立ち向かっていくとは思わなかったみたいだ。
だけど、人が私に抱くイメージなんて、知るもんか。
黒川を背に、くりりんの正面に立った私は、
「サイテー最悪のクソ野郎は、そっちでしょ?自分がしたいじめを自慢話みたいに話すなんて、クッソダサいから!」
「なっ……⁉︎しょ、証拠はどこにあるんだよ!おれたちがいじめてたなんて、」
「その動揺っぷりが、十分な証拠でしょうが。というか、黒川をあおって、自分のこと殴らせようとしてるのも見え見えだから。手口がワンパターンすぎ」
「ぐっ……」
相手は図星をつかれたのか、悔しそうにだまりこむ。
「だ、だけど、黒川がおれのことを殴ったのは事実で、」
言い訳がましく続けるくりりんに、まだ言うかとあきれて、
「むかしのことをねちねちねちねち、しつこすぎ。そういうヘドロ根性が、モテない原因なんじゃない?」
「だ、だれがヘドロだぁ!」
"モテない”ってところが、クリティカルヒットしたらしい。
くりりんは、つばを飛ばして声をあららげる。
「お、おい、栗林!」
「こんなチビ女に負けるなよ!」
仲間のエールを受け、落ち着きを取り戻したくりりんこと栗林は、
「に、にしても、ざまあねえな、黒川!こんなチビ女に守られて、恥ずかしくないのかよ?」
「あんたの生き様のほうが、よっぼど恥ずかしいわ」
「て、てんめぇ……!」
「落ち着け、栗林!」
また暴れ出しそうになる栗林を、仲間が必死になって止める。
せえぜえと肩で息をついた栗林は、
「お前ら……春ヶ丘中のバスケ部ってことは、明日の練習試合でおれらと当たるだろ?」
栗林の言葉に、きょとんとする。
言われてみれば、学校指定らしきスポーツバッグには、ローマ字で学校名が書かれている。
「う、うえええ⁉︎あなたたち、朱鷺坂学園のバスケ部なの⁉︎」
朱鷺坂って、かなりの強豪校なのに!こんな根性ねじ曲がった人たちもいるんだ……。
心の底から驚いていると、栗林は私がビビったと思ったらしい。
「そうだ。お前らなんて、明日の練習試合で蹴散らしてやるよ。桜ヶ丘なんて、私立のうちに比べれば、ザコばっかだろ」
仲間をコケにされて、メラッと闘争心が燃える。
そこまで言われて、だまってられるか!
「言っとくけど、勝つのはうちの学校だから!私が大好きなチームのみんなは、あんたたちなんかに絶対に負けない!」
「言ったな?だったら、賭けをしようぜ?」
にやりと笑った栗林は、
「明日の練習試合でお前らが負けたら、黒川と、ついでにお前もバスケ部をやめろ!」
その言葉に、ぎくりとする。
だって、黒川も私も、せっかく入った部活をやめないといけないだなんて……。
「まさか、あれだけ大口たたいといて自信がないなんて言わないよな?それとも、やっぱ、桜ヶ丘はザコばっかなのか?」
そんなふうにあおられて、カチンとくる。
「上等だわ!あんたたちのことなんて、けちょんけちょんにしてやる!」
「なら、勝負成立だな。ザコどもとの練習試合なんてつまらないと思ってたけど、ちょっとは楽しめそうだぜ」
栗林は、獲物に噛みつくのが待ちきれないみたいに、舌なめずりした。

