【9】
「これで、マネージャーの仕事はひと通り教えられたかな。スコア表の書き方や試合に行った時の手順は、そのつど教えるね」
「はい、ありがとうございます!」
アップ(ウォーミングアップの略だよ)のあと。
笛での合図出しを終えた美桜さんが、コートの外に戻ってきた。
美桜さんが首にかけたホイッスルは、マネージャーの証って感じで、かっこいい。
バスケ部専用のチームジャージも、チームの一員って感じがして、あこがれる。
「今日は、進路相談で遅れてくる二年生が多いって。部長や副部長もいないから、ミニゲームが中心になるかな」
選手はコートに広がって、ペアでのパス練習をはじめていた。いつもより人が少ない分、空間を広々と使えている。
「私たちも、そろそろドリンク作りに行こうか」
「はい!」
笑顔の美桜さんに続いて、体育館を出る。
水飲み場で作業をしていると、
「わたしね、ゆいちゃんとはじめて会った時から、この子がマネージャーになってくれたらうれしいなって、思ってたんだ」
「えっ⁉︎」
はじめて会ったのって、入部テストの受付でだよね?
美桜さんは、その時のことを思い出すみたいに、ふふっと笑って、
「ゆいちゃんは、稲葉だけじゃなくて、マネージャーのわたしにも、ハキハキと大きな声であいさつしてくれたでしょ?だから、この子がマネージャーになってくれたら、きっと仲良くなれるだろうなって思ったんだ」
美桜さんが笑うのに合わせて、爽やかな風が吹く。
そんなふうに、思ってくれてたんだ……。
胸がじんとした私は、
「私も……美桜さんの後輩になれてよかったです!」
「うん。ありがとう、ゆいちゃん」
少し照れくさそうに笑った美桜さんは、美人で優しくて、マネージャーとしての仕事もかんぺきで。本当に、すてきな先輩だ……!
私もいつか、美桜さんみたいになれたらいいなぁ。
ボトルが入ったカゴを持って、ほわほわした気持ちで体育館に戻ってくると、
「ふざけんな!」
空気を震わす怒号が響いた。
美桜さんと顔を見合わせ、中をのぞくと、
「今、おれがフリーだっただろ!なんでパスしねぇんだよ!」
声を荒らげ、向かい合う部員につかみかかっているのは、一年生の田代くん。
その相手は、
「パスしても、お前外すだろ。なら、強引にでもおれが打ったほうがいい」
時間のムダだと言いたげに、めんどくさそうに返すのは、黒川くんだ。
真っ向から対立する二人を前に、
『黒川くん、卒業前に“暴力事件”を起こしてるの』
よみがえったのは、昼休みに聞いた黒川くんのうわさ。
「おい、落ち着けってお前ら!同じチームの仲間だろうが!」
二人の間に割って入るガクに、
「ハッ。おれとお前らが仲間?」
黒川くんは、皮肉るように笑う。
その態度が火に油を注ぎ、
「何がおかしいんだよ!」
田代くんの怒りは、ますますヒートアップする。
「おい、やめろって!」
あわてて、カクが止めようとするものの。
関係ないやつは引っ込んでろ!と、突き飛ばされてしまう。
ケンカは今にも、流血沙汰に発展しそうだ。
止めなきゃとは思うものの。
二人の迫力に圧倒されて、誰もが動けないでいると、
「お前ら、なにやってるんだ!」
部長の声に、全員が反射的に姿勢を正す。
田代くんと黒川くんも、一方は拳をにぎり、一方は胸ぐらをつかまれたままの姿勢で固まっている。
そのうしろには、息を切らした美桜さんの姿があった。
「ごめんね、ゆいちゃん。一人にして」
騒ぎに気付いた美桜さんは、すぐに部長を呼びに行ってくれたみたいだ。
さすが、美桜さん……!
尊敬の念を強めたのも、つかの間。
「くだらねえ」
黒川くんは、舌打ちして体育館を出て行く。
かなりイラついてるみたいで、部長が呼び止める声も、完全に無視だ。
そんな黒川くんに、肩を震わせた田代くんは、
「あいつ……!一年の中で、一人だけ上手いからって、おれらのこと見下してるんだ!」
田代くんの心からの叫びに、全員が言葉をつまらせる。
たしかに、さっきの黒川くんの態度じゃ、そう取られてもしかたがない。
だけど……本当にそうなのかな?
私の横を通りすぎる黒川くんの瞳には、深い哀しみがよぎったように見えた。
あんな顔をする人が、本気でチームメイトを見下してる、なんてことがあるかな?
それに、このままじゃ……。また、チームがバラバラになっちゃう!
いても立ってもいられなくなった私は、
「黒川くん、追いかけてきます!」
「えっ、ゆいちゃん⁉︎」
私は美桜さんの声を背に受けながら、黒川くんのあとを追った。
「これで、マネージャーの仕事はひと通り教えられたかな。スコア表の書き方や試合に行った時の手順は、そのつど教えるね」
「はい、ありがとうございます!」
アップ(ウォーミングアップの略だよ)のあと。
笛での合図出しを終えた美桜さんが、コートの外に戻ってきた。
美桜さんが首にかけたホイッスルは、マネージャーの証って感じで、かっこいい。
バスケ部専用のチームジャージも、チームの一員って感じがして、あこがれる。
「今日は、進路相談で遅れてくる二年生が多いって。部長や副部長もいないから、ミニゲームが中心になるかな」
選手はコートに広がって、ペアでのパス練習をはじめていた。いつもより人が少ない分、空間を広々と使えている。
「私たちも、そろそろドリンク作りに行こうか」
「はい!」
笑顔の美桜さんに続いて、体育館を出る。
水飲み場で作業をしていると、
「わたしね、ゆいちゃんとはじめて会った時から、この子がマネージャーになってくれたらうれしいなって、思ってたんだ」
「えっ⁉︎」
はじめて会ったのって、入部テストの受付でだよね?
美桜さんは、その時のことを思い出すみたいに、ふふっと笑って、
「ゆいちゃんは、稲葉だけじゃなくて、マネージャーのわたしにも、ハキハキと大きな声であいさつしてくれたでしょ?だから、この子がマネージャーになってくれたら、きっと仲良くなれるだろうなって思ったんだ」
美桜さんが笑うのに合わせて、爽やかな風が吹く。
そんなふうに、思ってくれてたんだ……。
胸がじんとした私は、
「私も……美桜さんの後輩になれてよかったです!」
「うん。ありがとう、ゆいちゃん」
少し照れくさそうに笑った美桜さんは、美人で優しくて、マネージャーとしての仕事もかんぺきで。本当に、すてきな先輩だ……!
私もいつか、美桜さんみたいになれたらいいなぁ。
ボトルが入ったカゴを持って、ほわほわした気持ちで体育館に戻ってくると、
「ふざけんな!」
空気を震わす怒号が響いた。
美桜さんと顔を見合わせ、中をのぞくと、
「今、おれがフリーだっただろ!なんでパスしねぇんだよ!」
声を荒らげ、向かい合う部員につかみかかっているのは、一年生の田代くん。
その相手は、
「パスしても、お前外すだろ。なら、強引にでもおれが打ったほうがいい」
時間のムダだと言いたげに、めんどくさそうに返すのは、黒川くんだ。
真っ向から対立する二人を前に、
『黒川くん、卒業前に“暴力事件”を起こしてるの』
よみがえったのは、昼休みに聞いた黒川くんのうわさ。
「おい、落ち着けってお前ら!同じチームの仲間だろうが!」
二人の間に割って入るガクに、
「ハッ。おれとお前らが仲間?」
黒川くんは、皮肉るように笑う。
その態度が火に油を注ぎ、
「何がおかしいんだよ!」
田代くんの怒りは、ますますヒートアップする。
「おい、やめろって!」
あわてて、カクが止めようとするものの。
関係ないやつは引っ込んでろ!と、突き飛ばされてしまう。
ケンカは今にも、流血沙汰に発展しそうだ。
止めなきゃとは思うものの。
二人の迫力に圧倒されて、誰もが動けないでいると、
「お前ら、なにやってるんだ!」
部長の声に、全員が反射的に姿勢を正す。
田代くんと黒川くんも、一方は拳をにぎり、一方は胸ぐらをつかまれたままの姿勢で固まっている。
そのうしろには、息を切らした美桜さんの姿があった。
「ごめんね、ゆいちゃん。一人にして」
騒ぎに気付いた美桜さんは、すぐに部長を呼びに行ってくれたみたいだ。
さすが、美桜さん……!
尊敬の念を強めたのも、つかの間。
「くだらねえ」
黒川くんは、舌打ちして体育館を出て行く。
かなりイラついてるみたいで、部長が呼び止める声も、完全に無視だ。
そんな黒川くんに、肩を震わせた田代くんは、
「あいつ……!一年の中で、一人だけ上手いからって、おれらのこと見下してるんだ!」
田代くんの心からの叫びに、全員が言葉をつまらせる。
たしかに、さっきの黒川くんの態度じゃ、そう取られてもしかたがない。
だけど……本当にそうなのかな?
私の横を通りすぎる黒川くんの瞳には、深い哀しみがよぎったように見えた。
あんな顔をする人が、本気でチームメイトを見下してる、なんてことがあるかな?
それに、このままじゃ……。また、チームがバラバラになっちゃう!
いても立ってもいられなくなった私は、
「黒川くん、追いかけてきます!」
「えっ、ゆいちゃん⁉︎」
私は美桜さんの声を背に受けながら、黒川くんのあとを追った。

