【7】
「これで、はあ、三十、周……」
力尽きて、ふらりと倒れそうになった私を、
「ゆいちゃん!」
ゴールで待ってくれていた心音ちゃんが、支えてくれる。
「すっっごくかっこよかったわ!わたし、ゆいちゃんと友達になれてよかった!」
感極まって涙ぐんだ心音ちゃんは、私を抱きしめてくれる。
「うん。私も、」
言いかけた言葉は、
「ふざけないで!こんなの無効よ!」
杉本さんの怒声にさえぎられた。
「そいつが転びさえしなければ、わたしも時間内に走り切れてた!でなきゃ、わたしが、こんな役立たずに……!」
顔を真っ赤にして怒る杉本さんの言い分に、がくぜんとする。私が転んだのは、杉本さんが足を引っかけてきたからだ。
どこまでも自分勝手な言い分に、怒りを通り越してあきれていると、
「なにを言いがかりを!」
心音ちゃんが、すかさず反論しようとする。
しかし、
「その件については、俺からも聞きたいことがある」
それを制したのは、部長だった。
「里見」
部長にうながされた美桜さんは、ええ、とけわしい顔でうなずく。
その手には、一台のビデオカメラがあった。
「参加者には伝えていなかったが、今日の持久走の様子は、不正がないように動画におさめていた」
「なっ……⁉︎」
思わず、って感じで声を上げたのは、杉本さんだった。
杉本さんの反応に、部長のまなざしは完全に冷え切ったものになり、
「その動画に、妙な場面が映っていてな。きっき声を上げたあんたと、高坂。映像を確認してくれ」
部長の指示で、美桜さんが動画を再生してくれる。
動画には、杉本さんが私の足を引っかけた場面が、ばっちり映っていた。
「あんたはきっき、高坂が転びさえしなければ、自分も時間内に走り切れていたと主張していたな。この映像を見ても、まだ同じことが言えるか?」
「……っ!」
言い逃れようのない証拠を突き付けられて、杉本さんの顔は真っ青だ。
「あんたは、高坂のことを役立たずとも言っていたな。だが、本当にチームに必要ないのは、卑怯な手段で他人を落とそうとする、あんたのような人間だ」
部員をコケにされ、勝負の場を荒らされた部長からは、激しい怒気が立ち昇っていた。
「二度と、うちの部員に近付くな」
「……っ」
部長の叱責を受けた杉本さんは、悔しそうに顔をゆがめ、
「覚えてなさい!」
ギロッと私をにらみ、行ってしまった。あっけにとられてぽかんとしていると、
「これで、残ったマネージャー候補は一人だな」
「え……?」
部長の言葉で、ハッとする。
「今回のマネージャー入部テストの合格者は、君だけだ。高坂結衣」
「……っ」
「男子バスケ部の部長として尋ねる。俺たちのマネージャーになってくれるか?」
部長の問いかけに、はくりと口が動くだけで声は出ない。
……どうしよう。私こんなつもりじゃ……。
私はただ、一生懸命がんばってる心音ちゃんをバカにされたのにムカついて。そんな杉本さんが、お兄ちゃんが大切にしていたチームのマネージャーになるのが許せなくて……。
そもそも部長が、マネージャーにって言ってくれてるのは、
「それは……私が、“高坂紡の妹”だからですか?」
元部長の妹だからひいきされてるって、ほかの子にもさんざん言われたし。
コーチだって、私を最後の試合に出そうとしてくれたのは、私がお兄ちゃんの妹だからで……。
暗い目になる私に、
「それは、ちがう。この試験はもともと、マネージャー候補のねばり強さを見るためのものだ」
「え……?」
「試験の参加者が、自らあきらめないかぎり、だれも落とすつもりはなかった」
「「「「えーっ⁉︎」」」」
声を上げたのは、ほかのマネージャー候補の女の子たち。まさかの展開に、私も戸惑っていると、
「この中で、ただ一人。だれに何を言われても、あきらめなかったのは、君だけだ」
部長は、まっすぐな目で私を見て、
「それに君は、一度記録がとだえても、友達のためにもう一度走りはじめただろう?だれかのために頑張れることは、マネージャーに必要な才能だ」
「才、能……。私に……?」
ずっと、バスケの才能がないって言われ続けてきたのに……。私にも、あるの?だれかの役に立てるかも、しれないもの……。
「何より、そのあきらめの悪さは俺たちの信念と共通する。現に、君のあきらめの悪さに胸を打たれた部員も多い」
部長に、うながされてみれば、
「い、いもうどちゃん……!おれだぢのだめに、ありがどな!」
「ううっ、そうだよな!おれたち、綾人のしぼりカスなんかじゃないよな!」
「部員全員がチームにとって大切で、必要不可欠な存在だもんな……!」
部員の人たちは、なぜか男泣きをしていた。
「え、ええ……?」
というか、杉本さんとの会話聞こえてたの⁉︎
恥ずかしくて、その場から逃げ出したくなっていると、
「最初に会った時に、君が体育館に来ていた理由も、綾人から聞いた。誤解して、ひどいことを言ってすまなかった」
「えっ……⁉︎」
あの高圧的な部長が、私に頭を下げた⁉︎
しかも、こんな大勢の前でだ。
思いがけない行動にフリーズしていた私だけど、
「わ、私のほうこそ!」
すぐに思い直した私は、
「堅物ゴリラとか言って、すみませんでした!」
部長と同じ……ううん、それ以上に深く頭を下げる。
本当はずっと引っかかってて、謝りたいと思っていたから、よかった。
ほっとして、顔を上げた時、
「ん……?」
どうしてみんな、ぽかんとしてるんだろう?
みんなの反応の意味が分からないでいると、
「か、堅物ゴリラって……!ゆいちゃん、大和にそんなこと言ったの?」
思わずって感じで、稲葉先輩が笑い出す。
「あっ……!」
言われてはじめて、気がつく。
これ、言わなくて良かったことだ……!
ひ、ひえー!黒いオーラを放つ部長の顔を見られないでいると、
「くっ、あははっ!やっぱ、妹ちゃん、おもしれー!」
小柄な先輩が、目に涙を浮かべて笑う。
「おれ、二年の渡!妹ちゃん……じゃなくて、ゆいちゃん、あらためてよろしくな!」
「よろしくって、まだマネージャー引き受けるって言ってないでしょ」
メガネの先輩が、あきれたみたいに言う。
「えっ⁉︎ゆいちゃん、マネージャーやんねえの⁉︎」
「えっ……」
あらためて問われて、固まってしまう。
どうしよう……。みんなの視線が、私に集まってる。
「おれら、ゆいちゃんがマネージャーになってくれたら、すげえうれしいし、助かるんだけど。なっ⁉︎」
渡先輩に同意するように、みんな口々にうなずいてくれる。だけど……。
私なんかが、本当にマネージャーになってもいいのかな?うまくできなくて、また迷惑かけたり……邪魔になるんじゃ……。
だけど、こんなふうにみんなに笑顔を向けられて。
チームの人たちに、必要としてもらえることはうれしくて。
……やってみたいって、気持ちはある。
それでも、また失敗したらって思うと怖くて、
「わた、しは……」
一歩踏み出すことができず、答えあぐねていると、
「聞いて、ゆいちゃん!」
それは、私の心に訴えかけるみたいな必死な声だった。
私を囲む先輩たちを前に、臆せず進み出て来たのは、
「心音、ちゃん……?」
うつろな目の私の、真ん前に陣取った彼女は、
「わたし、美桜先輩を見ていて分かったの!」
「え……?」
「わたしは、綾人先輩のことしか眼中にないから、ほかの部員がケガをしても、綾人先輩と同じように対応できないし、そもそも気付かないかも!」
ひでぇ!という、うめき声が背後で聞こえる。
心音ちゃんはそれにかまわず、
「だけど、美桜先輩は違った!マネージャー候補のわたしにも、同じように優しく手当てをしてくれて。今日走ってる子たちのことも、平等に応援して、声をかけてた。それは、綾人先輩のファンってだけでマネージャーをやろうとしているわたしには、できないことだったの!」
心音ちゃんの言葉に、ほかの参加者の女の子たちが、うっとひるむ。
「でも……ゆいちゃんは、違うでしょ?」
心音ちゃんは、私の両肩をつかんで、
「少しでもやってみたいって思うのなら、挑戦してみなきゃ!何事もやってみなくちゃ分からないでしょ⁉︎当たる前から砕けてどうするの!むしろ、こっちが壁を酔く気で突進しなきゃ!」
その言葉は、いつも目標に対してまっしぐらな心音ちゃんだからこそ、説得力があった。
私は、そんな心音ちゃんのことをずっとまぶしく思っていて……。
「私にも……なれるかな?」
「わかんない!けど、挑戦してみなきゃはじまらない!まずは、スタートラインに立たなきゃ!」
私の背後にまわった心音ちゃんは、
「背中は、わたしが押してあげるから、行って来なさーい!」
「えっ、わっ⁉︎」
文字通り、力強く私の背中を押してくれる。
勢いのままに進み出た先には、腕組みをした部長が。
うっ、相変わらずの仏頂面……。
はじめてのことは怖いし、緊張するけど、
「部長、さん……」
心音ちゃんの激励が、背中に残る手の感触が、私に勇気をくれたから。
「マネージャーの件ですが、みなさんの気持ちはうれしいんですけど……」
みんなに見守られた私は、そこで一度、深呼吸をして、
「仮入部、とかはありですか?やってみたい気持ちはあるんですけど……。まだ自分が役に立てるか、自信がなくて。こんな中途半端な気持ちのまま、入部することはできなくて……」
気持ちを伝えようとすると、なんだか言いわけがましくなってしまう。
やっぱり、こんなめんどうな頼み事、断られちゃうよね……。
自信なくうつむく私に、
「一ヶ月だ」
「……え?」
「それまでに、マネージャーとして正式に入部するかどうか、答えを出せ」
「……っ!はい!よろしくお願いします!」
ぱあっと、華やいだ表情になる私に、
「よっしゃ!待望の女子マネだ……って、よろこんでいいのか?」
「ゆだんするな!まだ仮だ!」
「みんな、逃げられないように優しくしろよ!」
部員たちがこそこそ話す中、
「とりあえず、仮入部の1ヶ月間。よろしくね、ゆいちゃん」
「あっ、稲葉先輩。こちらこそ、」
「ゆいいいいいー!また同じチームでうれしいぜ!」
「ぐえっ!ガク、ぐるじい……!」
肩組みのつもりだろうけど、ヘッドロックみたいになってるから!
「こ、心音ちゃん、たすけ……」
ガクの腕から抜け出そうと、近くにいる心音ちゃんに手を伸ばすと、
「はぁーん!綾人先輩がこんなに近くに……!」
さっきまでの、熱い励ましはどこへやら。心音ちゃんは、憧れの綾人先輩を前に、目をハートにしていた。
バスケ部の先輩たちは、明るい雰囲気に当てられたのか、
「いよっしゃー!とりあえず、今日はお好み焼きパーティーだ!新入生歓迎パーティーすっから、たらふく食うぞ野郎ども!」
そんな号令に続いて、ごきげんな大合唱が起こった。
「これで、はあ、三十、周……」
力尽きて、ふらりと倒れそうになった私を、
「ゆいちゃん!」
ゴールで待ってくれていた心音ちゃんが、支えてくれる。
「すっっごくかっこよかったわ!わたし、ゆいちゃんと友達になれてよかった!」
感極まって涙ぐんだ心音ちゃんは、私を抱きしめてくれる。
「うん。私も、」
言いかけた言葉は、
「ふざけないで!こんなの無効よ!」
杉本さんの怒声にさえぎられた。
「そいつが転びさえしなければ、わたしも時間内に走り切れてた!でなきゃ、わたしが、こんな役立たずに……!」
顔を真っ赤にして怒る杉本さんの言い分に、がくぜんとする。私が転んだのは、杉本さんが足を引っかけてきたからだ。
どこまでも自分勝手な言い分に、怒りを通り越してあきれていると、
「なにを言いがかりを!」
心音ちゃんが、すかさず反論しようとする。
しかし、
「その件については、俺からも聞きたいことがある」
それを制したのは、部長だった。
「里見」
部長にうながされた美桜さんは、ええ、とけわしい顔でうなずく。
その手には、一台のビデオカメラがあった。
「参加者には伝えていなかったが、今日の持久走の様子は、不正がないように動画におさめていた」
「なっ……⁉︎」
思わず、って感じで声を上げたのは、杉本さんだった。
杉本さんの反応に、部長のまなざしは完全に冷え切ったものになり、
「その動画に、妙な場面が映っていてな。きっき声を上げたあんたと、高坂。映像を確認してくれ」
部長の指示で、美桜さんが動画を再生してくれる。
動画には、杉本さんが私の足を引っかけた場面が、ばっちり映っていた。
「あんたはきっき、高坂が転びさえしなければ、自分も時間内に走り切れていたと主張していたな。この映像を見ても、まだ同じことが言えるか?」
「……っ!」
言い逃れようのない証拠を突き付けられて、杉本さんの顔は真っ青だ。
「あんたは、高坂のことを役立たずとも言っていたな。だが、本当にチームに必要ないのは、卑怯な手段で他人を落とそうとする、あんたのような人間だ」
部員をコケにされ、勝負の場を荒らされた部長からは、激しい怒気が立ち昇っていた。
「二度と、うちの部員に近付くな」
「……っ」
部長の叱責を受けた杉本さんは、悔しそうに顔をゆがめ、
「覚えてなさい!」
ギロッと私をにらみ、行ってしまった。あっけにとられてぽかんとしていると、
「これで、残ったマネージャー候補は一人だな」
「え……?」
部長の言葉で、ハッとする。
「今回のマネージャー入部テストの合格者は、君だけだ。高坂結衣」
「……っ」
「男子バスケ部の部長として尋ねる。俺たちのマネージャーになってくれるか?」
部長の問いかけに、はくりと口が動くだけで声は出ない。
……どうしよう。私こんなつもりじゃ……。
私はただ、一生懸命がんばってる心音ちゃんをバカにされたのにムカついて。そんな杉本さんが、お兄ちゃんが大切にしていたチームのマネージャーになるのが許せなくて……。
そもそも部長が、マネージャーにって言ってくれてるのは、
「それは……私が、“高坂紡の妹”だからですか?」
元部長の妹だからひいきされてるって、ほかの子にもさんざん言われたし。
コーチだって、私を最後の試合に出そうとしてくれたのは、私がお兄ちゃんの妹だからで……。
暗い目になる私に、
「それは、ちがう。この試験はもともと、マネージャー候補のねばり強さを見るためのものだ」
「え……?」
「試験の参加者が、自らあきらめないかぎり、だれも落とすつもりはなかった」
「「「「えーっ⁉︎」」」」
声を上げたのは、ほかのマネージャー候補の女の子たち。まさかの展開に、私も戸惑っていると、
「この中で、ただ一人。だれに何を言われても、あきらめなかったのは、君だけだ」
部長は、まっすぐな目で私を見て、
「それに君は、一度記録がとだえても、友達のためにもう一度走りはじめただろう?だれかのために頑張れることは、マネージャーに必要な才能だ」
「才、能……。私に……?」
ずっと、バスケの才能がないって言われ続けてきたのに……。私にも、あるの?だれかの役に立てるかも、しれないもの……。
「何より、そのあきらめの悪さは俺たちの信念と共通する。現に、君のあきらめの悪さに胸を打たれた部員も多い」
部長に、うながされてみれば、
「い、いもうどちゃん……!おれだぢのだめに、ありがどな!」
「ううっ、そうだよな!おれたち、綾人のしぼりカスなんかじゃないよな!」
「部員全員がチームにとって大切で、必要不可欠な存在だもんな……!」
部員の人たちは、なぜか男泣きをしていた。
「え、ええ……?」
というか、杉本さんとの会話聞こえてたの⁉︎
恥ずかしくて、その場から逃げ出したくなっていると、
「最初に会った時に、君が体育館に来ていた理由も、綾人から聞いた。誤解して、ひどいことを言ってすまなかった」
「えっ……⁉︎」
あの高圧的な部長が、私に頭を下げた⁉︎
しかも、こんな大勢の前でだ。
思いがけない行動にフリーズしていた私だけど、
「わ、私のほうこそ!」
すぐに思い直した私は、
「堅物ゴリラとか言って、すみませんでした!」
部長と同じ……ううん、それ以上に深く頭を下げる。
本当はずっと引っかかってて、謝りたいと思っていたから、よかった。
ほっとして、顔を上げた時、
「ん……?」
どうしてみんな、ぽかんとしてるんだろう?
みんなの反応の意味が分からないでいると、
「か、堅物ゴリラって……!ゆいちゃん、大和にそんなこと言ったの?」
思わずって感じで、稲葉先輩が笑い出す。
「あっ……!」
言われてはじめて、気がつく。
これ、言わなくて良かったことだ……!
ひ、ひえー!黒いオーラを放つ部長の顔を見られないでいると、
「くっ、あははっ!やっぱ、妹ちゃん、おもしれー!」
小柄な先輩が、目に涙を浮かべて笑う。
「おれ、二年の渡!妹ちゃん……じゃなくて、ゆいちゃん、あらためてよろしくな!」
「よろしくって、まだマネージャー引き受けるって言ってないでしょ」
メガネの先輩が、あきれたみたいに言う。
「えっ⁉︎ゆいちゃん、マネージャーやんねえの⁉︎」
「えっ……」
あらためて問われて、固まってしまう。
どうしよう……。みんなの視線が、私に集まってる。
「おれら、ゆいちゃんがマネージャーになってくれたら、すげえうれしいし、助かるんだけど。なっ⁉︎」
渡先輩に同意するように、みんな口々にうなずいてくれる。だけど……。
私なんかが、本当にマネージャーになってもいいのかな?うまくできなくて、また迷惑かけたり……邪魔になるんじゃ……。
だけど、こんなふうにみんなに笑顔を向けられて。
チームの人たちに、必要としてもらえることはうれしくて。
……やってみたいって、気持ちはある。
それでも、また失敗したらって思うと怖くて、
「わた、しは……」
一歩踏み出すことができず、答えあぐねていると、
「聞いて、ゆいちゃん!」
それは、私の心に訴えかけるみたいな必死な声だった。
私を囲む先輩たちを前に、臆せず進み出て来たのは、
「心音、ちゃん……?」
うつろな目の私の、真ん前に陣取った彼女は、
「わたし、美桜先輩を見ていて分かったの!」
「え……?」
「わたしは、綾人先輩のことしか眼中にないから、ほかの部員がケガをしても、綾人先輩と同じように対応できないし、そもそも気付かないかも!」
ひでぇ!という、うめき声が背後で聞こえる。
心音ちゃんはそれにかまわず、
「だけど、美桜先輩は違った!マネージャー候補のわたしにも、同じように優しく手当てをしてくれて。今日走ってる子たちのことも、平等に応援して、声をかけてた。それは、綾人先輩のファンってだけでマネージャーをやろうとしているわたしには、できないことだったの!」
心音ちゃんの言葉に、ほかの参加者の女の子たちが、うっとひるむ。
「でも……ゆいちゃんは、違うでしょ?」
心音ちゃんは、私の両肩をつかんで、
「少しでもやってみたいって思うのなら、挑戦してみなきゃ!何事もやってみなくちゃ分からないでしょ⁉︎当たる前から砕けてどうするの!むしろ、こっちが壁を酔く気で突進しなきゃ!」
その言葉は、いつも目標に対してまっしぐらな心音ちゃんだからこそ、説得力があった。
私は、そんな心音ちゃんのことをずっとまぶしく思っていて……。
「私にも……なれるかな?」
「わかんない!けど、挑戦してみなきゃはじまらない!まずは、スタートラインに立たなきゃ!」
私の背後にまわった心音ちゃんは、
「背中は、わたしが押してあげるから、行って来なさーい!」
「えっ、わっ⁉︎」
文字通り、力強く私の背中を押してくれる。
勢いのままに進み出た先には、腕組みをした部長が。
うっ、相変わらずの仏頂面……。
はじめてのことは怖いし、緊張するけど、
「部長、さん……」
心音ちゃんの激励が、背中に残る手の感触が、私に勇気をくれたから。
「マネージャーの件ですが、みなさんの気持ちはうれしいんですけど……」
みんなに見守られた私は、そこで一度、深呼吸をして、
「仮入部、とかはありですか?やってみたい気持ちはあるんですけど……。まだ自分が役に立てるか、自信がなくて。こんな中途半端な気持ちのまま、入部することはできなくて……」
気持ちを伝えようとすると、なんだか言いわけがましくなってしまう。
やっぱり、こんなめんどうな頼み事、断られちゃうよね……。
自信なくうつむく私に、
「一ヶ月だ」
「……え?」
「それまでに、マネージャーとして正式に入部するかどうか、答えを出せ」
「……っ!はい!よろしくお願いします!」
ぱあっと、華やいだ表情になる私に、
「よっしゃ!待望の女子マネだ……って、よろこんでいいのか?」
「ゆだんするな!まだ仮だ!」
「みんな、逃げられないように優しくしろよ!」
部員たちがこそこそ話す中、
「とりあえず、仮入部の1ヶ月間。よろしくね、ゆいちゃん」
「あっ、稲葉先輩。こちらこそ、」
「ゆいいいいいー!また同じチームでうれしいぜ!」
「ぐえっ!ガク、ぐるじい……!」
肩組みのつもりだろうけど、ヘッドロックみたいになってるから!
「こ、心音ちゃん、たすけ……」
ガクの腕から抜け出そうと、近くにいる心音ちゃんに手を伸ばすと、
「はぁーん!綾人先輩がこんなに近くに……!」
さっきまでの、熱い励ましはどこへやら。心音ちゃんは、憧れの綾人先輩を前に、目をハートにしていた。
バスケ部の先輩たちは、明るい雰囲気に当てられたのか、
「いよっしゃー!とりあえず、今日はお好み焼きパーティーだ!新入生歓迎パーティーすっから、たらふく食うぞ野郎ども!」
そんな号令に続いて、ごきげんな大合唱が起こった。

