【1】
桜並木の土手を、花びらを舞い上げながら自転車が走る。
春を感じさせるあたたかな風に、
「風、気持ちいい~」
私、高坂結衣は目を細めた。
桜のトンネルを抜けると、晴れ渡った空の下。丘の上の校舎が見えてきた。
春ヶ丘中学校。私が今日から通う学校だ。
時刻は、七時前。グラウンドには、ちらほらとジャージ姿の生徒がいた。
もうじき、運動部の朝練がはじまる時刻なのかもしれない。
……私も急がなくちゃ。
私はリュックから、本が入った紙袋を取り出す。
せっかく早起きして来たのに、会えなかったら意味がない。
そうは思うものの、どうにも気が進まない。
手に下げた紙袋が、ずしりと重く感じる。
とはいえ、一度引き受けてしまったことだ。
小さくため息をつき、よし!と気合を入れ直すと、
「バスケ部が朝練をしているのは、第二体育館……」
慣れない校舎に緊張しながら、目的地を目指す。
私の兄、高坂紡は、今年の春から寮のある高校に進学した。その関係で、一週間前に実家を出たんだけど、
『悪い、ゆい!春休みに後輩に貸すって約束してた本、渡せないままだったの思い出してさ。代わりに渡してくれないか?』
中学校入学を機に買ってもらったスマホに、お兄ちゃんから電話があった。
お兄ちゃんの後輩ってことは、私の先輩だ。見知らぬ先輩に会うなんて、緊張するから嫌だと一度は断った。
だけど、
『約束したんだ、頼む!』
拝むように言われてしまえば、引き受けるしかなかった。
三歳年上の兄には、子どもの頃から何かと世話になっている。
都合のいい時にだけ頼って、いざ自分が頼まれごとをした時には断るなんて、あんまりだ。
そんなわけで私は、男子バスケ部に所属する二年生。
イナバアヤトさんに、会いに行くことになった。
待ち合わせの時間と場所は、お兄ちゃんとイナバさんの間で決まった。
二年生の教室を訪ねるより、朝練前の体育館のほうが、気が楽だと思われたらしい。
その通りだから、そこは感謝してる。
だけど、そもそも私はバスケに関係するものすべてに近付きたくないのだ。
バスケ部なんてもってのほかで、こんな機会がなければ、練習が行われている体育館には寄り付かなかった。
何度目かの憂鬱なため息をついた時、ボールをつく音が鼓膜をかすめた。
体育館の板張りの床と、バッシュ(バスケットボールシューズの略だよ)がこすれる音に、ドキドキと胸が鳴る。
開いた扉から中をのぞくと、背の高い男子がシュートを放ったところだった。大きく弧を描いたボールは、吸い込まれるようにリングに落ちる。
そのフォームがあまりにも綺麗だったから。
息をするのも忘れて、その光景に見入る。
まだ時間が早いからか、体育館にはその人の姿しかない。
朝練がはじまる前に来てるってことは、きっと先輩だ。
春中(はるちゅう)にも、こんなに綺麗にシュートを打つ人がいるんだ……!
ぶわっと鳥肌が立って、高揚感で胸がいっぱいになる。
シュート練習をするその人は、こちらに気付く気配はない。
ただ、真剣な眼差しでリングを見つめている。
そのひたむきな姿勢に、誰よりも早く来て自主練をしていた、かつての自分を思い出す。
だけどすぐに、
『ーーくせに、あんたのせいで、』
吐き捨てるように言われた言葉が、脳裏をよぎった。
……ダメだよ。もう、バスケには関わらないって決めたんだから。
だけど、どうしても離れがたくて、あと少し。もうちょっとだけ……。
そう思っているうちに、夢中になっていた。
時間を忘れて、その様子を眺めていると、
「おーい、何見てるの?」
「え?……っ!」
ふり返るとそこには、十人近い男の子たちがいた。
バスパン(パスケットボールパンツの略だよ)を履いているから、もしかしなくてもバスケ部の人たちだ。
「あれ?固まっちゃった?」
「というか、ちっちゃ!身長、いくつ?一四〇センチないんじゃない?」
「なんか、小動物っぽいね」
次々と話しかけてくる男子(しかも、たぶん先輩)に、私はたじろぐ。
気付けば、逃げるまもなく、背の高い男子たちに包囲されていた。興味津々に見下ろされると、動物園のパンダにでもなった気分だ。
ちなみに私の身長は、一四〇・三だから、しっかり一四〇センチ超えている。
「もしかして、入部希望?」
銀のフレームのメガネをかけた先輩は、落ち着いた印象だ。比較的、話しが通じそう。
そう判断した私は、紙袋の持ち手をぎゅっと握りしめて、
「あ、あの……!」
兄からの頼まれごとについて話そうとしたんどけど、
「何を騒いでいるんだ?」
体育館から顔をのぞかせたのは、さっきまでシュートを打っていた短髪の先輩。
目の前に立たれると、身長だけじゃなくてガタイもいいことが分かる。
正面から見たその顔は、精悍な顔付きで……すごくふきげんそう!
練習を邪魔されたから、怒ったのかな?
……まぁ、あれだけうるさくしてたら当然だよね。
その人の威圧感は、半端じゃない。今すぐにでも逃げ出したかった。
だけど、ここで紙袋を渡さずに帰ったら、あとで面倒なことになるし……。
いやいやながら、その場にとどまっていると、
「この子が体育館の前にいたから、話を聞こうとしただけ」
メガネの先輩が、事情を説明してくれる。
「それで結局、何の用なんだ?」
無愛想なその人に尋ねられて、ごくりとのどが鳴る。
その心情たるや、閻魔大王を前にした亡者のようだ。
すっかりビビって声が出なくなっていると、
「大和、顔。女の子、怖がらせてるから」
「バスケ部の鬼部長の名は、伊達じゃないよな~」
メガネの先輩とお調子者っぽい小柄な先輩が、茶々を入れる。
そのおかげで、恐怖心が薄れた。
できれば、一刻も早くこの場を離れたいし。
私は意を決して、
「あの、イナバアヤトさんはおられますか?」
間違いがないように、頭の中で名前を繰り返してから尋ねた。
だけど、
「……」
部長は、ピクリと眉を動かして、眉間のしわを深める。
ほかの部員も、やれやれって感じでため息をついた。
「なんだ、せっかく、まともなマネージャー希望者だと思ったのに、がっかりだわ」
「時間の無駄じゃん。さっさと練習しようぜ」
愚痴をもらした部員たちは、私の横を通り過ぎて体育館に入って行く。
「え……?」
あまりにも急な手のひら返しに戸惑っていると、
「あーあ。ほんと残念だな。シュート打ってる大和のことキラキラした目で見てたから、バスケ好きなのかなって思ったのに」
私のことをチビ呼ばわりした先輩が、とんでもない爆弾発言をする。
反射的に部長を見ると、その人は相変わらずの無愛想な顔で、私を見下ろしていた。
カッと顔を赤くした私は、
「す、好きなんかじゃありません!」
ムキになって、否定する。
その声が大きかったからか、まだ体育館に入ってなかった部員たちが、面食らった顔で私を見ていた。
その反応にハッとして、自分が言ってしまったことを思い出す。
この人たちはバスケ部で、少なくともバスケが嫌いではないはずだ。
なのにそのバスケを、面と向かって好きじゃないなんて言われたら……。
顔から、さーっと血の気が引いていく。
「……そうか。あんたの言いたいことはよく分かった」
雷が落ちる気配を感じ取った部員たちは、すばやく体育館の中に避難した。
壊れたロボットみたいに、ギギッと首を動かしてそちらを見ると、
「だったらなおさら、うちの部に用はないだろう?」
部長は、火も凍るような眼差しで私を見下ろしていた。
「あんたのような、男目当てのバカがいると、うるさくて練習にならないんだ。邪魔をするつもりなら、二度と来るな」
バンッ!
これ以上話すことはないと言わんばかりに、目の前で勢いよく扉が閉まった。
まさか閉め出されるとは思っていなかった私は、ぽかんと銀色の扉を見つめる。
あっけに取られた私は、しばらく動けないでいたんだけど。時間が経つにつれて、ふつふつと怒りがわいてくる。
男目当てのバカ、ですって……?
たしかに私も、いつまでも声をかけずにいたから悪かったけど。この対応は、あまりにもひどすぎない?
私だって、来たくて来たわけじゃないのに!
ガッと扉に手をかけた私は、火を吹かんばかりの勢いで扉を開くと、
「こっちだって、願い下げよ!この堅物ゴリラ!」
言いたいことだけ言うと、ピシャンと扉を閉めた。
どよめきの直後。体育館を揺らすような笑い声が聞こえたけど、知るもんか!
私は怪獣みたいにどすどすと歩くと、生徒玄関に向かう。
そして、くつを履き替えようとしたところで、
「あっ……」
まだ、自分の手に紙袋が残っていることに気が付いた。
だからと言って、あんな啖呵を切った直後に体育館に戻るのは気まずい。
イナバさんは、あの中にいたんだろうか?
うーんとうなった私は、スマホのメッセージアプリを開く。
『ごめん、上手く会えなくて渡せなかった』
兄にメッセージを送信し終えると、徐々に頭が冷えて来る。
「ううっ。堅物ゴリラとか、言っちゃった……」
これは本当によくないんだけど。
私は気持ちがたかぶると、我慢できずによけいなことを言ってしまうふしがある。
謝りに行ったほうが、いいのかな……?
だけどあっちだって、私の話をよく聞きもせず、閉め出してきたわけだし。まさかの、バカ呼ばわりもされたし。
とはいえ、私のほうが悪い気も……。うんうんうなっていた私だったけど、
「よし。忘れよう」
あっちだって、私みたいな失礼なやつの顔は見たくないはずだ。もう会うこともないだろうし。
お互いのために、それが一番だよね。
桜並木の土手を、花びらを舞い上げながら自転車が走る。
春を感じさせるあたたかな風に、
「風、気持ちいい~」
私、高坂結衣は目を細めた。
桜のトンネルを抜けると、晴れ渡った空の下。丘の上の校舎が見えてきた。
春ヶ丘中学校。私が今日から通う学校だ。
時刻は、七時前。グラウンドには、ちらほらとジャージ姿の生徒がいた。
もうじき、運動部の朝練がはじまる時刻なのかもしれない。
……私も急がなくちゃ。
私はリュックから、本が入った紙袋を取り出す。
せっかく早起きして来たのに、会えなかったら意味がない。
そうは思うものの、どうにも気が進まない。
手に下げた紙袋が、ずしりと重く感じる。
とはいえ、一度引き受けてしまったことだ。
小さくため息をつき、よし!と気合を入れ直すと、
「バスケ部が朝練をしているのは、第二体育館……」
慣れない校舎に緊張しながら、目的地を目指す。
私の兄、高坂紡は、今年の春から寮のある高校に進学した。その関係で、一週間前に実家を出たんだけど、
『悪い、ゆい!春休みに後輩に貸すって約束してた本、渡せないままだったの思い出してさ。代わりに渡してくれないか?』
中学校入学を機に買ってもらったスマホに、お兄ちゃんから電話があった。
お兄ちゃんの後輩ってことは、私の先輩だ。見知らぬ先輩に会うなんて、緊張するから嫌だと一度は断った。
だけど、
『約束したんだ、頼む!』
拝むように言われてしまえば、引き受けるしかなかった。
三歳年上の兄には、子どもの頃から何かと世話になっている。
都合のいい時にだけ頼って、いざ自分が頼まれごとをした時には断るなんて、あんまりだ。
そんなわけで私は、男子バスケ部に所属する二年生。
イナバアヤトさんに、会いに行くことになった。
待ち合わせの時間と場所は、お兄ちゃんとイナバさんの間で決まった。
二年生の教室を訪ねるより、朝練前の体育館のほうが、気が楽だと思われたらしい。
その通りだから、そこは感謝してる。
だけど、そもそも私はバスケに関係するものすべてに近付きたくないのだ。
バスケ部なんてもってのほかで、こんな機会がなければ、練習が行われている体育館には寄り付かなかった。
何度目かの憂鬱なため息をついた時、ボールをつく音が鼓膜をかすめた。
体育館の板張りの床と、バッシュ(バスケットボールシューズの略だよ)がこすれる音に、ドキドキと胸が鳴る。
開いた扉から中をのぞくと、背の高い男子がシュートを放ったところだった。大きく弧を描いたボールは、吸い込まれるようにリングに落ちる。
そのフォームがあまりにも綺麗だったから。
息をするのも忘れて、その光景に見入る。
まだ時間が早いからか、体育館にはその人の姿しかない。
朝練がはじまる前に来てるってことは、きっと先輩だ。
春中(はるちゅう)にも、こんなに綺麗にシュートを打つ人がいるんだ……!
ぶわっと鳥肌が立って、高揚感で胸がいっぱいになる。
シュート練習をするその人は、こちらに気付く気配はない。
ただ、真剣な眼差しでリングを見つめている。
そのひたむきな姿勢に、誰よりも早く来て自主練をしていた、かつての自分を思い出す。
だけどすぐに、
『ーーくせに、あんたのせいで、』
吐き捨てるように言われた言葉が、脳裏をよぎった。
……ダメだよ。もう、バスケには関わらないって決めたんだから。
だけど、どうしても離れがたくて、あと少し。もうちょっとだけ……。
そう思っているうちに、夢中になっていた。
時間を忘れて、その様子を眺めていると、
「おーい、何見てるの?」
「え?……っ!」
ふり返るとそこには、十人近い男の子たちがいた。
バスパン(パスケットボールパンツの略だよ)を履いているから、もしかしなくてもバスケ部の人たちだ。
「あれ?固まっちゃった?」
「というか、ちっちゃ!身長、いくつ?一四〇センチないんじゃない?」
「なんか、小動物っぽいね」
次々と話しかけてくる男子(しかも、たぶん先輩)に、私はたじろぐ。
気付けば、逃げるまもなく、背の高い男子たちに包囲されていた。興味津々に見下ろされると、動物園のパンダにでもなった気分だ。
ちなみに私の身長は、一四〇・三だから、しっかり一四〇センチ超えている。
「もしかして、入部希望?」
銀のフレームのメガネをかけた先輩は、落ち着いた印象だ。比較的、話しが通じそう。
そう判断した私は、紙袋の持ち手をぎゅっと握りしめて、
「あ、あの……!」
兄からの頼まれごとについて話そうとしたんどけど、
「何を騒いでいるんだ?」
体育館から顔をのぞかせたのは、さっきまでシュートを打っていた短髪の先輩。
目の前に立たれると、身長だけじゃなくてガタイもいいことが分かる。
正面から見たその顔は、精悍な顔付きで……すごくふきげんそう!
練習を邪魔されたから、怒ったのかな?
……まぁ、あれだけうるさくしてたら当然だよね。
その人の威圧感は、半端じゃない。今すぐにでも逃げ出したかった。
だけど、ここで紙袋を渡さずに帰ったら、あとで面倒なことになるし……。
いやいやながら、その場にとどまっていると、
「この子が体育館の前にいたから、話を聞こうとしただけ」
メガネの先輩が、事情を説明してくれる。
「それで結局、何の用なんだ?」
無愛想なその人に尋ねられて、ごくりとのどが鳴る。
その心情たるや、閻魔大王を前にした亡者のようだ。
すっかりビビって声が出なくなっていると、
「大和、顔。女の子、怖がらせてるから」
「バスケ部の鬼部長の名は、伊達じゃないよな~」
メガネの先輩とお調子者っぽい小柄な先輩が、茶々を入れる。
そのおかげで、恐怖心が薄れた。
できれば、一刻も早くこの場を離れたいし。
私は意を決して、
「あの、イナバアヤトさんはおられますか?」
間違いがないように、頭の中で名前を繰り返してから尋ねた。
だけど、
「……」
部長は、ピクリと眉を動かして、眉間のしわを深める。
ほかの部員も、やれやれって感じでため息をついた。
「なんだ、せっかく、まともなマネージャー希望者だと思ったのに、がっかりだわ」
「時間の無駄じゃん。さっさと練習しようぜ」
愚痴をもらした部員たちは、私の横を通り過ぎて体育館に入って行く。
「え……?」
あまりにも急な手のひら返しに戸惑っていると、
「あーあ。ほんと残念だな。シュート打ってる大和のことキラキラした目で見てたから、バスケ好きなのかなって思ったのに」
私のことをチビ呼ばわりした先輩が、とんでもない爆弾発言をする。
反射的に部長を見ると、その人は相変わらずの無愛想な顔で、私を見下ろしていた。
カッと顔を赤くした私は、
「す、好きなんかじゃありません!」
ムキになって、否定する。
その声が大きかったからか、まだ体育館に入ってなかった部員たちが、面食らった顔で私を見ていた。
その反応にハッとして、自分が言ってしまったことを思い出す。
この人たちはバスケ部で、少なくともバスケが嫌いではないはずだ。
なのにそのバスケを、面と向かって好きじゃないなんて言われたら……。
顔から、さーっと血の気が引いていく。
「……そうか。あんたの言いたいことはよく分かった」
雷が落ちる気配を感じ取った部員たちは、すばやく体育館の中に避難した。
壊れたロボットみたいに、ギギッと首を動かしてそちらを見ると、
「だったらなおさら、うちの部に用はないだろう?」
部長は、火も凍るような眼差しで私を見下ろしていた。
「あんたのような、男目当てのバカがいると、うるさくて練習にならないんだ。邪魔をするつもりなら、二度と来るな」
バンッ!
これ以上話すことはないと言わんばかりに、目の前で勢いよく扉が閉まった。
まさか閉め出されるとは思っていなかった私は、ぽかんと銀色の扉を見つめる。
あっけに取られた私は、しばらく動けないでいたんだけど。時間が経つにつれて、ふつふつと怒りがわいてくる。
男目当てのバカ、ですって……?
たしかに私も、いつまでも声をかけずにいたから悪かったけど。この対応は、あまりにもひどすぎない?
私だって、来たくて来たわけじゃないのに!
ガッと扉に手をかけた私は、火を吹かんばかりの勢いで扉を開くと、
「こっちだって、願い下げよ!この堅物ゴリラ!」
言いたいことだけ言うと、ピシャンと扉を閉めた。
どよめきの直後。体育館を揺らすような笑い声が聞こえたけど、知るもんか!
私は怪獣みたいにどすどすと歩くと、生徒玄関に向かう。
そして、くつを履き替えようとしたところで、
「あっ……」
まだ、自分の手に紙袋が残っていることに気が付いた。
だからと言って、あんな啖呵を切った直後に体育館に戻るのは気まずい。
イナバさんは、あの中にいたんだろうか?
うーんとうなった私は、スマホのメッセージアプリを開く。
『ごめん、上手く会えなくて渡せなかった』
兄にメッセージを送信し終えると、徐々に頭が冷えて来る。
「ううっ。堅物ゴリラとか、言っちゃった……」
これは本当によくないんだけど。
私は気持ちがたかぶると、我慢できずによけいなことを言ってしまうふしがある。
謝りに行ったほうが、いいのかな……?
だけどあっちだって、私の話をよく聞きもせず、閉め出してきたわけだし。まさかの、バカ呼ばわりもされたし。
とはいえ、私のほうが悪い気も……。うんうんうなっていた私だったけど、
「よし。忘れよう」
あっちだって、私みたいな失礼なやつの顔は見たくないはずだ。もう会うこともないだろうし。
お互いのために、それが一番だよね。
