陥れられた護衛悪役令嬢は婚約破棄からの追放を受け、Vtuberになることにしました。


「じゃあ次の一番手はオリヴィアですね」
「はいい!?」
「次はわたしが歌ってあげるので、思う存分この美声を響かせてくださいねぇ?」
「ちょっ……! 自分の得意分野でいじめてくるのはずるいですわ!」
「ほほほほ。なんのことでしょう?」

 しかしやはりナターシャさんの方が上手だった。
 そう、一時的に一休み……小休止しておやつタイムを満喫していたが、我々は今カラオケ配信中。
 地球のお菓子はお手軽で、美味しいものばかりだからつい、夢中になってしまったけれど……そうだ、私たち今配信中なのだ。
 そっと笑顔でオリヴィア先輩にマイクを手渡すナターシャさん。
 ナターシャさんをいじっていたオリヴィア先輩、だいぶしょんもりとしてしまう。
 残念だが誰もフォローができない。
 触らぬなんとかに祟りなしだ。

「まあまあ。オリヴィアちゃん、茉莉花お姉さんが一緒に歌ってあげるわよ」
「茉莉花さーん!」
「じゃあ、そのあとは一緒に歌いませんか? アネモネさん」
「はい! ぜひ!」

 まだまだナターシャさんと一緒に歌うにはハードルが高いけれど、甘梨さんとデュエットができたのはよかった。
 最後に連絡先も交換したし、絶対コラボしよう、と約束もできた。
 アルクレイド王国ではできなかった、同年代の同性の友人が……できたと思う。



「バイトに行ってきますー」
「行ってらっしゃい」

 配信者活動もしながら、バイトに行くことも慣れてきた。
 オズワイドと地球に暮らしつつ、大型犬カフェに通い夜にはVtuberとして配信する。
 休みの日やバイトのない日は事務所に行って、案件やグッズのサンプルを確認したり、3Dお披露目の内容などをアゼットさんと検討したり。
 今まで知らなかった積極的で活動的な自分に日々、驚いている。
 私ってこんなに社交的に動ける人間だったのか、と思いながら電車に揺られる今日この頃。
 父も母も少しずつセンタータウンから地球のマンションの方に出てくることが増えて、資格試験や就職活動が活発化している。
 最初はどうなることかと思ったけれど、私たちはちゃんと、ゆっくりだけれど……どうにか、異世界の生活に馴染み始めていると思う。
 私とオズワイドはともかく、王侯貴族の制度さえない異世界での生活に父と母が順応できるのかと不安だったけれど……我が父と母は強かった。
 ちゃんとこの世界の文字や言葉を習得したし、資格の勉強も頑張っている。
 私たちよりもずっと大変な思いをしているはずなのに、新しく学べることが楽しいと生き生きしていて本当にすごい。
 さすが私の両親。
 きっと――きっと私はこの世界に根づいていくのだろう。
 友人ができたのが第一歩。
 恋人……は、わからない。
 まだそんな気持ちにはなれない。
 でも、Vtuberという仕事を始めたおかげで昔の私とは比べ物にならないほどに――今まで知らなかった私を解放できている。
 だからVtuberは、私にとって天職なのだろう。

『アネモネ』
「どうした、シルバー。あまり地球では喋らない方がいいのでは……」
『精神が今までで一番安定しています。少々興奮状態に近い。動物は人間の精神状態に影響されやすいので、カフェに入る前に一度リラックスしてはいかがでしょう』
「うーん。……いや、大丈夫だ。悪い意味の興奮ではない。今、すごく仕事に行くのが楽しみなのだ。だから大丈夫! このあとの配信も、なんのゲームをしようかな、とか……考えながら出勤するのも楽しいし」
『そうですか。Vtuberの仕事は楽しいですか?』
「すごく!」
『それはよかったです。今後もどうか、いぶこーのVtuberとしての活躍を期待します』
 
 シルバーの硬い円形の冷たい感触を指でなぞる。
 カバンからは出せないけれど、この世界で生きていくのにまだまだ、シルバーにはサポートをしてもらわねばなるまい。
 うん、と小さく頷く。

「期待に添えられるように頑張るよ。でも、どうか心配はしないでほしい。私は――私の名前は“固い誓い”という意味だからな。Vtuberとしてこれからもたくさんの人々に楽しい時間を提供すると誓う。騎士として、リスナーたちの楽しい時間を守ってみせるよ」
『それは素晴らしいですね。ナターシャ様との歌みた収録もその勢いで頑張って乗り切ってくださいね』
「………………忘れてたのにぃ……」
 
 もちろん、頑張ってやるけれどな!
 ああ、やってのけるとも!
 
 
 
 
 終