──やっぱり全然印象が違う。学校中で、先輩も後輩も含めて日永くんを知らないひとはいないほどの有名人。誰もが「かっこいい」と口を揃えるビジュアルに加えて、頭が良くて、運動神経が抜群で、どこにも非の打ち所がない。

 特にその平行二重と長いまつ毛は全女子の憧れだ。それでいてだれにでも平等で優しいから、男女ともに慕われている。少女漫画のヒーローみたいで、間違っても「だるい」だなんて言わないひと。


 学校中の憧れで、まさしく偶像。女の子を呼ぶときは名字にさん付け。そんな彼が"かなんちゃん"と呼んだなんてだれが信じるだろうか。あまりにもあっさりしているから、女の子をちゃん付けで呼ぶのも慣れていそうだった。目の前にいる彼の全てが、作り上げられた日永 柊とはかけ離れていた。


 「まさか、真面目と名高い叶南ちゃんがそんなふうだったとは」

 「……うるっさいわね。人のこと言えんの?」

 「ふは、こわー。それが本性って、普段どんだけ猫かぶってるわけ」

 「あんたもそうでしょうが」


 模範生で穏やかの皮を被った人気者と真面目優等生猫被り女子であるわたしは、初対面で本性バレしたのだった。けれど、その出会いは少なくともわたしにとっては特別と呼ぶにふさわしくなった。よく見られたくて猫を被っていい子ぶってしまうわたしが唯一本音をさらけ出せるのは、当時は柊しかいなかったから。


 友情が恋情へと形を変えるのは容易だった。あっという間に"好き"が舞い込んだ。