──そうして会議室のドアを開けて、冒頭へ巻き戻る。開けた瞬間に飛び込んできたシルエット。頭が認識するより前に、口から彼の名前がこぼれ落ちた。それから返ってきた言葉。凍えるほどの低いトーン、耳から消えてくれない。


 目の前には間違いなくあの頃好きで仕方なかった彼がいて。なのに、別人みたいな冷たい声と嘘っぽい笑顔。
 なのに、一瞬耳元に触れた手はあの頃みたいに熱を持っていて、わたしにも伝染してしまう。


 「……ならないわよ。何年経ってると思ってるの」

 「はは、きびしー」


 軽薄で、無責任で、捕まらない。一言二言交わしただけで、変わらなさを実感する。それだけで泣きそうになった。


 ──どうしようもなく、好きだった。

 恋心は今もまだ、奥底に仕舞い込んだままだ。



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