社内で素を見せることができて、一瞬でも心から笑うことができるのは芽奈といるときだけ。彼女がいなかったらわたしはとっくにこの会社を辞めていただろう。優等生でいようと猫を被ってしまうのは、学生時代から変えられずにいた。


 「名取、この後すぐ会議だっけ?」

 「そうなの。新規プロジェクト──"マイクレ"メンバーとの顔合わせ。会議室の準備もしなきゃでもう行かないと」

 「相変わらず案件抱えすぎじゃない? ほんと、良くやってるよ」

 「芽奈こそだよ。いつも尊敬してる」

 「ふふ、あたしたちお互い認め合ってていい関係!」


 理不尽ぶつけられ仲間兼同期であり、親友という言葉を当てはめて良い存在だ。芽奈に対する信頼も尊敬も段違い。わたしも同じように支えられていたらいいなと思う。


 「そういえばさ!」


 黒髪ロングのポニーテールを揺らしながら、芽奈の口角が弧を描く。


 「マイクレ、この間入ってきた中途の人もアサインされてるらしいよ! ほら、イケメンで超ハイスペって話題になったあのひと!」


 「えー……誰だっけ。ていうかメンバーリストあんまり目通せてなくて」


 「じゃあ会議のとき目光らせといてー! この会社でのあたしたちの楽しみってこれくらいしかないんだから!」


 「勝手に"たち"にしないでよ? 芽奈好みそうだったらチェックしとくね」