はっとした。意識を引き戻される。わたしを覗き込むそのひとを認識したら、無性に泣きたくなった。
「叶南、大丈夫だから。俺に全部、任せて」
わたしだけではなく、会議室全体に響き渡る声。この間みたいに、わたしを落ち着かせるように頭を撫でて、安心させてくれる。人前なんて忘れてその温かな手のひらに甘えてしまう。
「中断してしまい申し訳ございません。僕のパソコンから繋げますのでお待ちください」
涙腺をきゅっと締めて、スクリーンを見上げれば。映っていたのはさっきのわたしのものではない。柊のパソコンから出力されたPDF。映したかったそれが、間違いなくスクリーンを光らせていた。
「バックアップは僕のほうで取っていました。共有ファイルとして保存していたのですが……名取さんのファイルを遠隔で消したときに上書き保存してしまったようですね」
柊がつらつらと言葉を並べてゆく。涙で歪むスクリーンに映る情報の中、ひとつ、目についた。
アクセス履歴の"最終更新者"のところに表示された名前に、息が苦しくなって、止まるかと思った。その名前が、名取叶南でも日永柊でもなかったから。
「営業推進部の、久保部長。あなたの名前がここにありますね」
「は、な、なんで……」
「あなたが名取さんのファイルを遠隔で操作して削除したから、でしょう。身に覚え、ありませんか?」



