わたしはスクリーンに投影した資料のページ送りをする、簡単なお仕事。けれどかなり重要な役割を担っていた。結構、息が詰まりそうだ。


 柊はほとんどカンペを作っていないけれど、どんなことを話すかは事前に共有済みだ。頭に叩き込んで、ちょうど良いタイミングで次のページへとクリックする。



 「では、続いて起用タレントにつきまして」



 柊の心地よい合図とともに、資料を次のPDFに変える。用意しておいたタブをクリックして、スムーズに進むはず、だったのに。


 ──どうして。かち、かち、と何度押しても表示されない。代わりに映るのは「ファイルに問題が発生しました。再度お試しください」の無機質な文字のみだった。


 なんで、どうして、どうしよう。先週の金曜日、わたしは柊と一緒に資料を確かめた。表示の文字が映ってしまう理由は100パーセント、ファイル自体が消去されているからだ。


 なぜ? どうして? 理解が追いつかない。頭が真っ白になる。焦りや不安がわたしを押しつぶすように支配する。


 保存していたフォルダを確認しても、やっぱりPDFは存在していなかった。どうにかファイルを復元しようと、バックアップを手繰り寄せようとするけれど上手くいくはずがなくて。顔色が青白く冷めていく間に、会議室後方からどこか浮ついた声が響いた。