『終わった?』
「……それが、あと少し」
通話にため息が乗っかりそうになって、引き戻す。部長の当てつけもあるけれど、基本的にはわたしがもっと要領よくこなせていれば済む話なのだ。4年目にもなって、嫌になる。
窓の外の暗さと、パソコンのひかりの明るさが虚しくて俯けば、不意に辺りに漂った甘い香り。毎日身に纏う、慣れた匂い。
──「今日も大変ですね、叶南ちゃん」
違和感が舞い込む。スマホ越しの左耳ではなく、直接右耳に届けられた気がして。弾けるように振り返って、その姿を捉える。
「柊」
「俺との金曜なのになー、俺との時間減らしたいのかなー」
「……うるさい、これでも頑張ってるのよ」
電話をしながらやってきたのは柊だった。まさか直接現れるなんて思っていなかったし、いつも通りの柊だからついつい可愛くない反応をしてしまう。



