終業時間から1時間が経過していた。フロアにはもう誰も残っていない。元々残業する人が少ないこの会社で、金曜は群を抜いて少なかった。そりゃみんな、金曜は早く帰りたいよね。
「……柊に連絡、しなきゃ」
今日は日中、意外とスムーズに仕事が進んだから定時すぐ帰れるのかも、なんて淡い期待を抱いていた。だから社内チャットでそのように伝えてしまっていたのだ。残業は日常だけれど、早く終わるかもと匂わせた上で待たせてしまったのは申し訳ない。
社用スマホで日永柊の文字をタップしようとして、止める。プライベートの連絡先を知っていて社用を使う必要がなかった。卒業式の日に止まった時間は、また進み始めていたから。
『はい』
「お疲れさま、柊」
2コールでつながる。柊と電話をする機会は多くないけど、突拍子もないタイミングだとしてもコールは長くならない。すぐに出てくれる安心感は昔から変わらなかった。
『営業時間は午前9時から午後6時となっております。恐れ入りますが時間内に再度おかけいただ』
「自動音声の真似しないで。社用スマホじゃないんだから」
もう彼は終わっているだろうか。頭の回転も手も早い柊はどれだけ仕事を振られてもきっと時間内にこなすから、終わっているんだろうな。



