叶わぬロマンティックに終止符を



 もうすぐ50歳にもなるいい大人だ。太っていて髪も少なくなったおじさんが、若手社員をいびることに注力しているなんて馬鹿馬鹿しい。そんなアホらしさに反論ひとつできなくて、泥濘んだ足場から逃げ出そうとしない自分にも腹が立つ。


 時間を見計らったように押し付けてきたのは部長のパソコンの設定やらID申請やらの雑務。部長といえど「自分のことは自分でやりましょう」という社風から、秘書もついていない。面倒ごとは全てわたしか芽奈に投げるのだ。


 部長はかなりのステレオタイプで、わたしや芽奈、それから産休に入った先輩に対して当たりが強かった。「女はサポートに徹するべき」という考え方があるからで、総合職採用の女性をよく思っていないのだと噂で聞いた。腑に落ちた。


 部の人間であれば、システムの裏側から代理申請や代理設定ができてしまうのも実は問題だったりする。本来は非常事態に利用すべき代理システムなのに、営推では都合よく使われているのが実態だった。



 「ごめん名取! 今日用事あるからお先!」

 「全然大丈夫。楽しんでね」



 最近は芽奈と一緒にパソコンを光らせていたけれど今日はデートらしい。仕事、たくさん引き受けてもらってるから今度お礼しないと。そしてデートが上手くいくようにお祈りもしておかないと。


 暖房も冷房も必要のない10月。けれど夜になってくると冷たさも迷い込んできたように感じる。七部丈はそろそろ卒業して、薄手のニットが主人公として登場を待ち侘びているように思う。