叶わぬロマンティックに終止符を



 同期は100人くらいいるけれど、本社ビルの部署に配属されたのは10人程度で、残りは支社配属、全国各地に散らばっている。芽奈以外の同期とは滅多に飲みにも行かない。

 その上「触らぬ神に祟りなし」とか言って、本社一の問題部署・営業推進部のわたしたちとの関わりを避けている節がある。先輩後輩ともそこまで親密でないわたしを、良くも悪くも気にかけている人物なんて、特に今は一人しかいないのだ。


 先ほど目で追いかけたブラウンのスーツがもう一度頭の中で浮かぶ。あの頃の記憶も同時に、蘇る。



 『叶南とお揃いなら、許してやるわ』

 『は? 何様?』

 『だからこれ、ありがたく受け取れよ。俺と同じだから』



 高校のとき、誕生日にもらったひいらぎの香水。あれは彼の愛用香水でもあって──いまも、同じ香りがする。芽奈のスッキリした残り香よりも、ひいらぎのほうが強く残っていた。