叶わぬロマンティックに終止符を



 ──ひいらぎは、彼の名前の由来だ。もっといえば、ひいらぎの花の花言葉。柊がわたしを守ってくれていると勝手に感じて購入したピアスに、彼は気がついているだろうか。わたしが君を忘れられずにピアスに想いを乗せていたこと。

 ブラウンの綺麗なスーツ。その後ろ姿はもう、見えなくなっていた。


 「名取〜! ちょっとさあ!」

 「芽奈」


 無意識で柊の後ろ姿を目で追ってしまっていたから慌てて視線をまっすぐ戻す。さっきまで彼が立っていたデスク横に、今日もさらさらの黒いポニーテールを揺らす彼女がいた。

 部長が今日は一日中外出だから話しかけてきたのだろう。綺麗な顔をいっぱいに破顔させた彼女の小さな唇が動く。


 「中途のイケメン、日永さん! やっぱりかっこいいよね〜」

 「タイプじゃないとか言ってたじゃない」

 「タイプでなくてもかっこいいものはかっこいいでしょう? で、どうなのよ」

 「……なにが?」


 マイクレの顔合わせ後、元から知り合いだったという事実は伏せて"中途のイケメン"について話した。ただ、柊は正統派で王道、中性的だけれど、芽奈のタイプは格闘家やボディビルダーのような強さのあるひとだから「そういう系ではなかったよ」と伝えていた。


 部長がいないからか、イキイキとした芽奈の脈絡のなさに首を傾げる。