続きを予感させる言葉を届けてから、彼は周りにはわからないくらい一瞬だけわたしの耳元に顔を寄せた。そんな一瞬でも心拍数が一気に上がる。ふわり、鼻腔をくすぐる慣れた香り。
「……また明日の夜ね、叶南」
誕生日に飲みに行って以来、毎週金曜日は柊との時間になった。素直になれないながらも「制服着てたわたしたちがお酒飲んでるって不思議だね」なんて笑って、空白を埋めるように言葉を積み上げた。そんな時間が、翌週も、その次も、と気づけば当たり前になっていった。
だけれどお互いに、卒業式のことを口にはしなかった。……できなかった。あの日のことはいつまでもわたしの胸を締め付ける。
「……名前で呼ばないで。グラフ化しないわよ」
「おーこわこわ。ごめんね、名取さん」
じゃあよろしくお願いします、と立ち去っていった。顔が近づいた耳元、変わらず咲くひいらぎのピアスを確認するように自らの手で触れた。



