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 意地っ張りで口が悪くて、真面目の皮を被った女の子は俺が唯一素を出せる相手だった。


 人前で絶対見せない、ぷくっと膨れた顔が可愛くて、何回もさせたくなった。


 高校時代の思い出は名取叶南なしでは語れない。叶南のことが好きだった。きっと、叶南も同じ想いでいてくれた。


 だから、卒業式の日にいつもの裏庭に呼ばれたとき俺は死んでもいいと思った。素直になれない俺たちだったけど、最後は素直になろう、と。


 父さんと同じ大学に行きたくて、アメリカという道を選んだ。必然的に遠距離になる。けれど、叶南となら乗り越えられると本気で思っていた。進学先も、叶南にだけは伝えていた。



 『名取さん、ずっと好きでした。付き合ってください』

 『第二ボタン、もらってくれませんか』



 ──叶南となら、いくらでも。どんなことでも。本気でそう考えていた。


 知らない男子生徒の、あの声を聞くまでは。