「……そんなことない部が、あったり?」

 「……だな。手は打ちたいけど、なかなか手強くてな。俺が人事部ならなんとかできたかもしれんが」

 「というと?」

 「……問題の部長の奥さんが社長の娘なんだよ。迂闊に何も言えないわけ。自分の無力さに反吐が出るよ」

 「……あー……」

 「ほら、あの向こうで突っ伏せてる子。あの子とか、被害者」

 「……そーなんすか」


 静かに煙草の先を皿に押し付けた。この会社では付き合いの煙草も必要なさそうだ。一度手元に落とした視線を、隣に立つ人物へと戻した。責任感のない、寄り添うふりをしているような、そんな表情に見えた。

 須和さんの言う通り、彼がどうにかできる問題ではないかもしれない。それでもこの会社の人間は、社内の歪みに気づきつつも、該当部署に関わりがなければ見て見ぬふりをするのか。


 ……情けな。


 そう思いつつも、自分だってできることはない。それに今の俺は他者に構う場合ではなく自分をどうにかするべきだ。一刻も早く慣れて、戦力になるべきだ。