「ありがとうございます。彼女はいないです」

 「え、じゃあじゃあ、連絡先教えてくださ〜い!」


 これに関しては丁重にお断りをした。AIのような作り物の笑顔を貼り付けて。


 配属されたのは企画経営部。前職での経験を買ってもらってのことだろう。すぐに新規プロジェクトを任せてもらえたのもきっとそうだ。とはいえ、業務内容は全く違うから早く慣れて会社の一員として認められないといけない。

 プロジェクトメンバーに目を通す余裕は、あまりなかったし、すれ違ったひいらぎの香りにも気が付かなかった。



 ──



 「園山さん、この資料、お願いしてもいい?」

 「はぁっ! もちろんです!」


 二週間もすれば仕事にも慣れてきた。自分の外面の良さを理解しているから最大限活用している。女性社員は俺のお願いに対して目をハートにしてくれていた。

 企業の外部相談役ではなく、実際に組織を内部の人間として動かしたい、と考えて決めた転職は思いのほか成功の予感がしていた。せっかく転職したのに給料はほぼ横ばい、もったいないとはかなり言われたものの、その分残業が少なく自分の時間が取れることがありがたかった。周りは皆、基本的に定時で上がっていた。


 だから驚いたのだ。とある話を聞いて。