「わたしにだって予定くらいあるけど、せっかく再会したんだし? 1杯くらい付き合ってあげてもいいわよ」

 「変わってねーな、叶南」

 「そっちこそ」

 「誕生日にひとりぼっちで可哀想なアラサー叶南に付き合ってやるよ」



 すぐに、あの頃に戻ったみたいに口が動く。勝手に言葉が溢れる。この距離が、どうしようもなく愛おしくて泣きそうになった。



 失礼なことばかり言うのに、甘やかで温かな笑みが向けられるからやっぱり胸が鳴ってしまう。「いくよ、叶南」と、わたしを呼ぶ優しい声が、癖になる。一瞬で、あの頃の想いを引き戻す。


 短針は9をめがけて進む。わたしたちの止まっていた時間も進んでいくみたいだった。藍色に染まった秋空の下、ひいらぎのピアスとひいらぎの匂いをまとったわたしを、柊が連れ出してくれた。