朝8時に出社して12時間が経つ。午後8時、いつもより早い時間だ。終業間際に依頼された仕事が終わっていないけれど少しくらい早く帰りたかった。いくつになってもわたしにとって誕生日は特別だから。
高校のときは、柊が祝ってくれたな、と思い返す。高二の誕生日はファストフード店で「好きなものいくらでも頼め」なんて言うわたしたちの関係らしいプレゼントだった。柊にたくさん奢らせたくて意気込んだのに、結局メイン二皿目で脱落して、半分食べてもらったりして。
高三のときは香水をプレゼントしてくれた。なんで香水、と聞けば「なんとなく」なんて返ってきて。気にも留めなかったプレゼントの意味を、柊と会えなくなってから調べて、知った。
社会人になるタイミングでなくなったそれを、就職祝いとして買い直した。この匂いを纏っていれば、ちょっぴり強くなれる気がしたから。
思い出に浸る時間的余裕はないのに、一度現れてしまった柊を脳内から追い出すことは容易ではない。今日は帰ろう、と日常となったわたしだけの執務室にため息を落とすと、不意にまたスマートフォンが光った。
「え」
今度はどこのお店のクーポンだろうか、と差出人を確認すれば、思わず驚きの声が溢れてしまった。
だって、表示されていた名前は"日永 柊"。



