けれどきっとそんなものは夢物語で、うまくいくはずがないともうひとりの自分が忠告している。結果を出すよりも、上司の目につかないように小さく小さくやり過ごすこと。入社してからというもの、わたしの猫被りは強度を増して、諦め癖がついてしまった。
今日も気付けば時計の短い針は8を指していた。午後の会議終わりも当然のように部長に嫌味を溢された。
「おまえよりエリートしかいないけど、俺に迷惑がかからないようにせいぜい上手くやれよ」と。わたしを心の底から見下す視線が不快だった。それでも口元だけで嘘の笑顔を作って「はい、善処します」と答えるしかなかった。
「……わたし、いつまで……」
わたしは、いつまでこんなふうに涙を流さなければならないのだろう。
目の前のパソコンだけが淡く灯る執務室。視界が滲んで、ぼやける。
不意にひかったスマートフォンは、昔一回だけ行ったカフェの誕生日クーポンの通知だった。誕生日をお祝いしてくれる友人は年々減っていくのに、通知の数は変わらない。……なんて寂しいんだろう、わたし。
意思に反して左頬に涙が伝う。秋が夏を上書きする9月、26歳初日にオフィスで泣いてしまうなんて恥ずかしくてあわてて拭った。



