「近くと言っても、もう遅い時間なんだからね。すぐ帰っておいでよ」
私は「はーい」と言って、家を出た。
お父さんに貰った千円札を握りしめ、コンビニに向かっているのだ。お目当ては『空色クリームソーダ』。小さな紙箱の中に、10個セットで入っているアイスクリーム。一度食べてからというもの、どっぷりとハマってしまった。
コンビニに入り、『空色クリームソーダ』を手にとってレジで並ぶ。時間帯の割には、混雑しているようだ。
「あれ? 相川さん?」
後ろから声をかけられ振り返ると、水野さんが立っていた。
***
「まさか、同じアイスクリームを買いに来てただなんてウケるね!」
コンビニの駐車場で私たちは笑いあった。なんと、水野さんも『空色クリームソーダ』を買いに来ていたのだ。水野さんの家は、このコンビニから真東の方向にあるそう。ちょうど私とは反対側だ。
「や、やっぱり高いの? 今着てる、その服……?」
私は水野さんに聞いた。
彼女が着ている上下のセットアップは、テロテロとした柔らかそうな素材で、微妙な光沢があった。海外のセレブが、プライベートで着ていそうな雰囲気だ。
「え? この服のこと? これ、シモムラの上下セット980円のやつだよ。——アハハ、高そうに見えるなら転売でもしちゃおうかな」
水野さんはそう言って笑った。あまり見ない水野さんの笑顔を、2人きりの時に見れるだなんて。っていうか、スタイルの良い人が着ると、シモムラの服もここまで格好良く見えちゃうんだ……
「こんなとこで時間つぶしてると、アイス溶けちゃうね。ここで、一緒に食べちゃおうか?」
水野さんのその提案に、私は「うん!」と返事をした。
***
「どうして、莉奈と仲良くなったのかって? まあ、私たちこう見えて、小3の時からずっと一緒だからね」
「そっ、そうなの!?」
私と水野さんたちは通っていた小学校が違う。確か、このコンビニ辺りから向こうが、水野さんたちの小学校の校区だったと思う。
「そうそう。実は私、帰国子女でさ。こっちに引っ越してきてすぐは、日本語も少しあやしかったの。服装も他の子と違ったしね。だけど莉奈にはそれが魅力的だったのか、ずっと私にくっついてきて。その時からの付き合いなんだ、莉奈とは」
水野さん、帰国子女だったんだ……なんとも言えない不思議な魅力の原因のひとつは、これもあるのかもしれない。
「だけど水野さん、その割には——」
「楓でいいよ」
「え?」
「楓でって呼んでくれていいよ。私も志帆って呼ぶから」
わ、私が楓って呼び捨てちゃっていいんだ……コンビニに来て良かった。お父さんがくれた、千円のおかげだ……!
「そ……その割には楓、日本語ペラペラだなって」
「ああ、両親は日本人だからね。向こうでも、自宅ではほとんど日本語だったし。でも、子どもたちとの日常会話では、知らなかった言葉も結構あったんだよ」
水野さん……いや、楓は「これホント好き」と言って、アイスを口に運んだ。
「じゃ、そこからずーっと仲良しってことなんだね」
「まあ、私の中ではね。莉奈は時々、あーだーこーだ言ってくるけど」
「え? 例えば、どんなことを言ってくるの?」
「一番最初は、日本に来て一ヶ月くらい経った時だったかな。『楓、オシャレだと思ってたのに、いつも同じ格好じゃん! ダサいよ!』なんて言い出して」
「ひっ、姫川さん、そんなこと言ってきたの!? っで、楓はなんて返したの?」
「じゃ、莉奈が服決めてよって。私、それ着るからって」
ビックリした私は、思わず『空色クリームソーダ』をひとつ落としてしまった。「もったいない」と楓が笑う。
「しかもそれ、今もずっと続いてるんだよ。服は絶対一緒に買いに行くし、美容室も一緒。莉奈が髪を切らない時にも、ついてくるくらいだから」
「ま、まるで、お母さんじゃん……?」
「ハハハ、そうかもしれないね。私、オシャレとか全然興味ないからさ。ラクと言えばラクなんだよ、莉奈がいると」
そう言って楓は涼しげに笑った。
彼女は決して、自分を持っていないんじゃない。興味がないことに関しては、誰かに委ねられるだけの器の大きさがあるんだ。
「楓たち、仲が良いとはおもってたけど、そこまでの繋がりがあったんだ……でも流石に、坊主にしろって言われたらやらないでしょ?」
私は冗談交じりでそう聞いてみた。
「うーん、莉奈が本気で似合うと思って言うなら、やるんじゃないかな」
「まっ……マジで?」
楓が笑顔で頷いた時、スマホが震えた。まだ家に帰らない私を心配したお母さんからだった。
「そろそろ帰らないとだね……そうそう。私たちさ、試験前に集まって勉強会開いてるんだけど、志帆も来ない? もちろん、白石さんも誘ってあげてさ。——まあ、返事はあとでいいから、とりあえずラインだけ交換しておこうか」
楓たちとの勉強会ってことは、桐島くんたちも来る……こんなの、願ってもないことだ。私はフワフワとした気持ちのまま、楓とラインの交換をすませた。
私は足取りも軽く、家路につく。琴音には明日の朝にでも突然言って、驚かせてあげよう。
そして、家に着く直前になって、楓からラインが入った。
『これからもヨロシク!』
大阪のおばあちゃんからのラインでも見たことがない、アプリに一番最初から入っているスタンプだった。
私は「はーい」と言って、家を出た。
お父さんに貰った千円札を握りしめ、コンビニに向かっているのだ。お目当ては『空色クリームソーダ』。小さな紙箱の中に、10個セットで入っているアイスクリーム。一度食べてからというもの、どっぷりとハマってしまった。
コンビニに入り、『空色クリームソーダ』を手にとってレジで並ぶ。時間帯の割には、混雑しているようだ。
「あれ? 相川さん?」
後ろから声をかけられ振り返ると、水野さんが立っていた。
***
「まさか、同じアイスクリームを買いに来てただなんてウケるね!」
コンビニの駐車場で私たちは笑いあった。なんと、水野さんも『空色クリームソーダ』を買いに来ていたのだ。水野さんの家は、このコンビニから真東の方向にあるそう。ちょうど私とは反対側だ。
「や、やっぱり高いの? 今着てる、その服……?」
私は水野さんに聞いた。
彼女が着ている上下のセットアップは、テロテロとした柔らかそうな素材で、微妙な光沢があった。海外のセレブが、プライベートで着ていそうな雰囲気だ。
「え? この服のこと? これ、シモムラの上下セット980円のやつだよ。——アハハ、高そうに見えるなら転売でもしちゃおうかな」
水野さんはそう言って笑った。あまり見ない水野さんの笑顔を、2人きりの時に見れるだなんて。っていうか、スタイルの良い人が着ると、シモムラの服もここまで格好良く見えちゃうんだ……
「こんなとこで時間つぶしてると、アイス溶けちゃうね。ここで、一緒に食べちゃおうか?」
水野さんのその提案に、私は「うん!」と返事をした。
***
「どうして、莉奈と仲良くなったのかって? まあ、私たちこう見えて、小3の時からずっと一緒だからね」
「そっ、そうなの!?」
私と水野さんたちは通っていた小学校が違う。確か、このコンビニ辺りから向こうが、水野さんたちの小学校の校区だったと思う。
「そうそう。実は私、帰国子女でさ。こっちに引っ越してきてすぐは、日本語も少しあやしかったの。服装も他の子と違ったしね。だけど莉奈にはそれが魅力的だったのか、ずっと私にくっついてきて。その時からの付き合いなんだ、莉奈とは」
水野さん、帰国子女だったんだ……なんとも言えない不思議な魅力の原因のひとつは、これもあるのかもしれない。
「だけど水野さん、その割には——」
「楓でいいよ」
「え?」
「楓でって呼んでくれていいよ。私も志帆って呼ぶから」
わ、私が楓って呼び捨てちゃっていいんだ……コンビニに来て良かった。お父さんがくれた、千円のおかげだ……!
「そ……その割には楓、日本語ペラペラだなって」
「ああ、両親は日本人だからね。向こうでも、自宅ではほとんど日本語だったし。でも、子どもたちとの日常会話では、知らなかった言葉も結構あったんだよ」
水野さん……いや、楓は「これホント好き」と言って、アイスを口に運んだ。
「じゃ、そこからずーっと仲良しってことなんだね」
「まあ、私の中ではね。莉奈は時々、あーだーこーだ言ってくるけど」
「え? 例えば、どんなことを言ってくるの?」
「一番最初は、日本に来て一ヶ月くらい経った時だったかな。『楓、オシャレだと思ってたのに、いつも同じ格好じゃん! ダサいよ!』なんて言い出して」
「ひっ、姫川さん、そんなこと言ってきたの!? っで、楓はなんて返したの?」
「じゃ、莉奈が服決めてよって。私、それ着るからって」
ビックリした私は、思わず『空色クリームソーダ』をひとつ落としてしまった。「もったいない」と楓が笑う。
「しかもそれ、今もずっと続いてるんだよ。服は絶対一緒に買いに行くし、美容室も一緒。莉奈が髪を切らない時にも、ついてくるくらいだから」
「ま、まるで、お母さんじゃん……?」
「ハハハ、そうかもしれないね。私、オシャレとか全然興味ないからさ。ラクと言えばラクなんだよ、莉奈がいると」
そう言って楓は涼しげに笑った。
彼女は決して、自分を持っていないんじゃない。興味がないことに関しては、誰かに委ねられるだけの器の大きさがあるんだ。
「楓たち、仲が良いとはおもってたけど、そこまでの繋がりがあったんだ……でも流石に、坊主にしろって言われたらやらないでしょ?」
私は冗談交じりでそう聞いてみた。
「うーん、莉奈が本気で似合うと思って言うなら、やるんじゃないかな」
「まっ……マジで?」
楓が笑顔で頷いた時、スマホが震えた。まだ家に帰らない私を心配したお母さんからだった。
「そろそろ帰らないとだね……そうそう。私たちさ、試験前に集まって勉強会開いてるんだけど、志帆も来ない? もちろん、白石さんも誘ってあげてさ。——まあ、返事はあとでいいから、とりあえずラインだけ交換しておこうか」
楓たちとの勉強会ってことは、桐島くんたちも来る……こんなの、願ってもないことだ。私はフワフワとした気持ちのまま、楓とラインの交換をすませた。
私は足取りも軽く、家路につく。琴音には明日の朝にでも突然言って、驚かせてあげよう。
そして、家に着く直前になって、楓からラインが入った。
『これからもヨロシク!』
大阪のおばあちゃんからのラインでも見たことがない、アプリに一番最初から入っているスタンプだった。



