アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

「出来たで志帆。——どうや?」

 私の髪の毛の裾を指先でチロチロとまとめがながら、おばあちゃんが言う。

 こっ、これは……カワイイ……!!

 ヘアカットとヘアクリームの組み合わせだけで、こんなに髪に動きが出るの……? しかも、裾に入れてもらったピンク色、めちゃくちゃキレイな発色なんだけど!!

 正直、おばあちゃんのことを見くびっていた……これはプロの中のプロだ……

「ありがとう、おばあちゃん! 本当の本当に、めちゃくちゃカワイイ!」

「フフフ、そうか。孫にそう言ってもらえたら、おばあちゃんもこんな嬉しいことないわ。こっちこそ、ありがとうな」

 おばあちゃんは鏡越しに、笑顔で言った。
 
 
***


「そうそう。何も起こらへんと思うけど、一応これ読んどき」

 夕食を食べ終わると、おばあちゃんはペラペラの冊子を渡してきた。表紙には、『災害への備え』と書かれてある。

「この辺りの家、全部古いやろ。地震とか火事とか起きたら、結構危ないらしくて。その時の対策が書いてあるねん」

 あーなるほど。この辺りの市役所にでも置いてある冊子だろうか。時間ならいくらでもある。寝る前にでも、読んでおこう。

「明日からおばあちゃん仕事やけど、あんたどないするん?」

「明日はね、ミナミに行ってみようと思って」

「あんた1人でか! ミナミは悪いお兄ちゃんとか沢山おるから、ほんまに気をつけなあかんで」

 おばあちゃんはそう言うと、飲んでいた缶ビールをテーブルに置き、何かを取りに行った。

「明日、これ持っていき。帰る時に渡そうと思ったけど、明日使ったらええ。そやけど、あんまり無駄遣いしたらあかんで」

「いっ、いいよ、おばあちゃん。お小遣いなら、お父さんからも貰ってきたし!」

「なに言うてんの、孫が遠慮なんかしたらあかん。それより、なんかオシャレなん買ってきて、おばあちゃんにも見せてくれたらええやんか」

 ほろ酔いになったおばあちゃんは、嬉しそうにそう言った。


***


 地下鉄『なんば駅』を出て、地上へと上がる。

 地下街同様、地上へ出てもすごい人混みだ。私の地元もそこまで田舎ではないが、人の多さに圧倒されてしまう。おまけに、そこかしこには外国人観光客の姿。まるで、ちょっとした海外旅行に来た気分だ。

 道頓堀は……こっちだね。

 地図アプリを頼りに、商店街の中を進む。ミナミに来たからには、やっぱりグリコの看板と一緒に写真を撮っておきたい。そうそう、あのグリコの看板の正式名称は『グリコサイン』というらしい。

 1人で歩いていると話し相手がいないからか、見るもの・聞こえてくるのもと、全ての情報が私に飛び込んでくる。知らない場所という緊張感と、ほどほどの高揚感がたまらなく私を刺激する。これからの私の趣味は、旅行にしてもいいかもしれない。


 これか——

 私は橋の上から、グリコサインを見上げた。やっぱり、写真で見るのとは迫力が違う。

「お姉さん観光中? 写真撮ってあげよか」

 グリコサインを背景に自撮りを始めると、派手なお兄さんが声をかけてきた。

「ま、まあ、観光中ですけど……大丈夫です、1人で撮れますんで」

「いいからいいから、貸してみスマホ。1人やったらポーズも取られへんやろ」

 ポ……ポーズ……?

 戸惑っている私から半ば強引にスマホを取り上げると、グリコサインを背に、彼は私を撮り始めた。

「ほらほら、もっと笑顔で! 楽しい旅行の最中やで!」

 お兄さんが余りにも軽々しく言うので、思わず笑ってしまった。お兄さんは「いい笑顔!」と声をかけてくる。

「はい! じゃ、次はポーズ取って!」

「ポ……ポーズって……?」

「グリコの前でポーズ言うたら決まってるやん! ほら、隣の人と同じポーズで!」

 隣を見ると、若い男の子たちが両手と片足をあげてポーズを取っていた。彼らと目が合うと、彼らも「ポーズ! ポーズ!」と笑顔で催促してくる。

 ええい、どうせ知ってる人なんて誰もいないんだ! こうなったら、楽しんだもの勝ちだ!!

「オッケーオッケー、笑顔もバッチリ! いい写真撮れたわ!」

 お兄さんはそう言って、笑顔でスマホを返してくれた。私は小さく頭を下げて、お礼を言う。

「——で、お姉さん今からどこ行くの? 俺、この辺やったらどこでも詳しいで」

「いっ、いや、どことか全然なくて、私1人で大丈夫なんで」

「そうなん? ミナミとか悪い男だらけやで。騙されんように、俺がついててあげるのに。——まだ学生さんやろ? もう、働いてたりする?」

 ん……? このお兄さん、私のこと何歳だと思ってるんだろう。ヘアスタイルのせいもあって、もしかして結構大人っぽく見えてるのだろうか……?

「ま、まだ学生ですよ。先月14歳になったとこなんで……」

 そう言った途端、お兄さんの表情が固まった。

「こ……今年14歳ってことは、ま、まだ中2……?」

 私がコクリと頷くと、「ホンマ、悪い奴には気つけや!」と言ってお兄さんは足早に去ってしまった。