アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

「ほらほらそこの2人、ちゃんと聞いてよ私の話。ただでさえ、夏休みは気が緩むんだから」

 玲央くんと莉奈ちゃんが、担任の川瀬先生に注意された。彼らはペロッと舌を出して、肩をすくめる。

 あれ……? いつだったか見たようなシーン。

 あの時はただの憧れだった彼らが、今ではすっかり友達になっている。目が合った莉奈ちゃんは、私に小さく手を振ってきた。


 今日は一学期の終業式。

 このホームルームを終えると、夏休みが始まる。

 今年の夏は、どう過ごそうか……

 そんなことを考えていると、ポケットに忍ばせていたスマホが震えた。玲央くんたちとのライングループからだ。

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加藤がさ「夏休み最初の週末、泊まりで海行かない?」って誘ってくれてるんだけど、どうする? 一応、俺と翔は行くつもり。しかもさ、プライベートビーチがあるらしいぜ!
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 とっ、泊まり!? そんなの、みんなの親はゆるしてくれるの!?

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なんで泊まり?
プライベートビーチはいいとしてさ
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 楓の返信。うんうん、もっともだ。

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なんでも、その日は地元のデカい花火大会があって、それは絶対見たほうがいいんだってさ。だけど、その花火を見たら時間的に帰れないらしいんよ。プライベートビーチだから、誰にも邪魔されず花火を見れるらしいぜ。
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 こ……これは流石に、悩む価値があるかもしれない。

「私は行く!」と莉奈ちゃんが返したのをキッカケに、結局全員が行くと返事を入れた。

 あ、あとは、どうやって両親を説得させるかが問題だ……


***


「加藤くんって子の、叔父さんが経営するペンションねえ……」

 夕食時、私はお父さんたちに海に行ってもいいかの相談をしていた。現状、すぐにはウンと言ってくれそうにない。

「そ、そうそう! 最寄り駅まで車で迎えに来てくれて、当日も一階で一緒に泊まってくれるらしいの!」

「にしても、なんでそんな稼ぎ時に、志帆たちを無料で招待なんてしてくれるんだ?」

「えーと、なんて言ったっけ……レ、なんとかプション? 経営前のテストをしたいんだって。加藤くんが無理やり、お願いしたのもあるっぽいけど……」

「ああ、レセプションかあ。中学生相手にレセプションってのも、あんまり聞いたことないけどなあ」

「あっ! 今ちょうど、その叔父さんからの動画が届いたみたい! 一緒に見てみて!」

 説得は難航するかもしれないと、加藤くんが叔父さんと交わしたビデオ通話を送ってきてくれたようだ。

『じゃ叔父さん、説明よろしく!』

『どうも初めまして、瑛太(えいた)の叔父の加藤と申します。色々とご心配おかけしております。ウチのペンションはですね、二階は完全に左右で別の部屋に分かれておりまして、通常なら別々の家族さまが泊まられる仕様になってるんです。そこを男女で、それぞれの部屋を使ってもらってですね。私もその日は、1階で泊まるつもりにしています。ですので————』

 加藤くんの叔父さんは、中学生の男女が一泊しても安全だと説明してくれた。叔父さんにも同じ年くらいの子供さんがいるので、一緒に遊んでやってくれると嬉しいとも言っている。

「ここまで気遣ってくれてるなら、安心しても良さそうだな……今回は行かせてやってもいいんじゃないか、母さん」

「ま、まあ……パパがそう言うなら、いいんじゃない?」

 やっ、やった!!

 今から1週間後、私は玲央くんたちと真夏の海にいる!!


***


 私はリュックに荷物を詰めて、早朝の駅へと向かう。途中コンビニで、楓と莉奈ちゃんと合流する予定だ。

「向こうのご家族さんには、迷惑かけないようにね。もしなにかあったら、すぐに連絡してくるのよ」

 お母さんは眠そうに目をこすりながら、そう言った。


 この時間はまだ、比較的涼しい。私は歩きながらスマホを取り出し、念の為アバター★ミーのチェックをした。

ルックス:0———●————100 [ 40]
運動神経:0———●————100 [ 40]
頭の良さ:0—●——————100 [ 10]
〘 決定する 〙

 今日のために少しだけ【ルックス】を上げておいた。ここまで上げても、ほんの少しだけお腹がポッコリしている。本当なら一気に上げたかったけど、今はガマンガマン……

 【運動神経】に関しては、万一の海難事故に備えて高くしておいた。まあ、そんなことが起きちゃったら大変なんだけども……


「おはよう、志帆! ——あれ? またあんた痩せたんじゃない?」

「あ……分かる? 夏痩せっていうのかな、あんまり食欲が無くて……」

「なにそれ、羨ましい。私なんて食欲マシマシで、今日も朝からモリモリ食べちゃったっていうのに」

「それなのに、あんた全然お腹出てないじゃない。逆に自慢になってるよ、それ」

 そう言って楓は、莉奈ちゃんのお腹をポンポンと叩いた。