亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 坊や、と。繰り返されるか細い声で目を覚ますと、目の前には見たことのない顔があった。

 白銀色の髪と菫色の瞳、白く滑らかな肌、薔薇色の唇。まるで芸術品のように整った美しい女が、泣きながら訴えている。

(──何だ、これは)

 ここは夢の中だ。そうだと判ったのは、そこが身も心も凍りついてしまいそうな豪雪の中だというのに、少しも寒さを感じなかったから。

『いつか、巡り巡った私の魂が──』

 泣いている女が、腕に抱いていたものと一本の剣を差し出してくる。それを受け取ると、女の身体が輝きだしたかと思えば、ぶわりと大きな光を放った。

 その瞬間、女の髪色が色を失い、闇一色へと変わった。

『待ってください! あなたはっ……』

 女へと伸ばした手は、子供のように小さくて。何一つ掴めなかったその手は、細々とした青い光を纏っていく。

 白銀色の髪の女が、少年に何かを託し──光の粉になって消えた。今の一つの光景は、少年が見ていたもののようだ。

 いつ、何処で起きたことなのか。あの二人は誰なのか。少年が小さな腕で抱きしめているものは何なのか。

 全てが不可解な夢から目を醒ました時、鈴を転がしたような声に、名前を呼ばれた気がした。