オヴリヴィオ帝国には孤児院が多い。国土は広く、潤沢な資源を有しているが、最高権力者である皇帝に恵まれなかった為、ここ何十年と国政が安定していなかった。
気分次第で金も人も振り回し、憂さ晴らしに戦争を仕掛ける皇帝のせいで、親を失った子供が多い。だが、十年前からは減少傾向にある。ヴィルジールが皇帝となってからだ。
「──お姉ちゃん、名前は?」
「ルーチェよ」
孤児院に着くなり、ルーチェは瞬く間に子供たちに囲まれていた。共に居たヴィルジールの側に子供が寄らないのは、近づき難い雰囲気を晒し出しているからだろうか。
「ルーチェは、どこから来たの?」
「お姉さん、字は書ける?」
好奇心が旺盛な年頃の子供たちが、ルーチェに続々と質問をしている。彼ら一人ひとりに目線を合わせながら、笑顔で返していくルーチェの姿を、ヴィルジールは塀に背を預けながら眺めていた。
突然孤児院を訪れたルーチェとヴィルジールを、年嵩の女性が優しい笑顔で出迎えた。二人の身形を見れば、貴族階級以上の人間であることは明らかだったが、彼女は何も言わずに見守っていた。
子供たちと駆け回っているルーチェは、陽だまりのような笑顔を浮かべている。その姿は普段よりも幼く見え、ヴィルジールは軽く目を瞠りながら見入っていたが、次第に慣れていった。
──きっと、記憶を喪う前のルーチェは、無邪気に笑う少女だったのだろう。
ヴィルジールはルーチェを見つめながら、緩々と目元を和らげていった。
気分次第で金も人も振り回し、憂さ晴らしに戦争を仕掛ける皇帝のせいで、親を失った子供が多い。だが、十年前からは減少傾向にある。ヴィルジールが皇帝となってからだ。
「──お姉ちゃん、名前は?」
「ルーチェよ」
孤児院に着くなり、ルーチェは瞬く間に子供たちに囲まれていた。共に居たヴィルジールの側に子供が寄らないのは、近づき難い雰囲気を晒し出しているからだろうか。
「ルーチェは、どこから来たの?」
「お姉さん、字は書ける?」
好奇心が旺盛な年頃の子供たちが、ルーチェに続々と質問をしている。彼ら一人ひとりに目線を合わせながら、笑顔で返していくルーチェの姿を、ヴィルジールは塀に背を預けながら眺めていた。
突然孤児院を訪れたルーチェとヴィルジールを、年嵩の女性が優しい笑顔で出迎えた。二人の身形を見れば、貴族階級以上の人間であることは明らかだったが、彼女は何も言わずに見守っていた。
子供たちと駆け回っているルーチェは、陽だまりのような笑顔を浮かべている。その姿は普段よりも幼く見え、ヴィルジールは軽く目を瞠りながら見入っていたが、次第に慣れていった。
──きっと、記憶を喪う前のルーチェは、無邪気に笑う少女だったのだろう。
ヴィルジールはルーチェを見つめながら、緩々と目元を和らげていった。


