亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 それからヴィルジールはルーチェを今流行りのカフェに連れて行くと、食べるのが勿体ないくらい美しいケーキを食べさせた。

 ひと息ついた後は、人気デザイナーの仕立て屋で、普段使いのものからパーティー用のドレスまで注文を、宝石店ではルーチェの瞳の色に合わせた美しい装飾品を。

 ルーチェは何もしていないのに受け取るわけには、と全て断ろうとしたが、ルーチェの好きなものが知りたいからという理由で押し切れられてしまった。

 特別美味しいと感じた味は何か、どんな色が好きか、好きな花の品種は何か。ルーチェが何かに触れたり見たりするたびに、ヴィルジールは紐を解くように問いかけてきた。 


 城下町の名所を堪能し尽くした頃、空は橙色に染まっていた。夕映えの空を見上げるルーチェの左側にはヴィルジールが、右腕には清廉な色合いの花束がある。

 白い花が好きだと言ったルーチェに、ヴィルジールが贈ったものだ。城に届けさせるよう彼は手配しようとしていたが、これだけは自分で抱えて持って帰りたいとルーチェは言った。

「……あ」

 ふとルーチェの足が止まる。

「どうした」

「あの建物に寄ってもいいでしょうか?」

 ルーチェの目線を辿るように、ヴィルジールが目を動かす。その先にあるのは孤児院だ。

 ヴィルジールは「なぜ急に」と言い出しそうな顔をしていたが、それを待たずに歩き出したルーチェに腕を引かれ、そこに向かうことになった。