亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 とりあえずにとルーチェが選んだお店では、花菓子というものが売られていた。花を使って作られたお菓子らしく、塩漬けにされた花が添えられているものから、練り込まれているものなど色々とあると売り子が教えてくれた。

 どれもこれも、初めて見るものばかりだ。ルーチェは瞳を輝かせながら、可愛らしく包装されているものを手に取る。

「……それが気に入ったのか?」

 ルーチェの手のひらにあるのは、花びらが練り込まれている焼き菓子だ。焦げ茶色で横長く、お洒落にリボンが掛けられている。

「可愛いなあと。でも、こっちも可愛いです」

 右手には焦げ茶色のものを、左手に貝殻の形をしたものを手に取っているルーチェは、どちらが良いか頭を悩ませた。きっとどちらも美味しいだろうが、二個は多い。 

「両方買えばいいだろう。店主、これとそれを」

 どちらにしようか悩むルーチェを余所に、ヴィルジールが紙幣を店主に突き出す。

「ヴィ、ヴィルジール様っ……!ひとつで充分です」

 ふたつ食べるつもりも、買ってもらうつもりもなかったというのに。

「日持ちのする菓子だ。別の日に食べればいい」

 ヴィルジールは口角をうっすらと上げると、ルーチェの頭の上に手を置いた。

「ありがとうございますっ……」

「花菓子程度で感激されるとは」

 次の場所に行くのか、ヴィルジールが腕を差し出してくる。

 ルーチェは買ってもらった焼き菓子をポシェットに入れ、笑顔をこぼした。